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3.ペット
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男の家に来て、3日目の朝だった。
「う…ん」
僕は昨日のあの後、しばらくしてからズカズカと歩いて僕の元までやってきた男に首根っこを掴まれ、風呂場に押し込まれた。
『とっとと風呂に入れ!洗わない気か不潔め!』
そう鬼の顔をした男に罵倒された僕は、びくびくと体を震わせながら男の言う通り体と頭を洗った。その後、脱衣所に新品だろう下着が置かれていて僕は男の行動に少し戸惑った。
思えば、初日もそうだった。名前も何者かも分からない男の家で風呂になんか入れるか!飯なんか食えるか!と恐怖の一心で固まって動けずにいた僕を男は無理矢理、風呂に入れ!と言い、男の家から逃げ出そうとする僕を無理矢理捕まえて椅子に座らせ、飯をくえ!と言い放った。
…あの男が一体何を考えているのかわからない。僕を犬、とそう言うくせにこうして新品の下着を僕に与えてきたり、なんだかんだとご飯も食べさせてくれている。…単なる暇つぶしか?
いや、もしかしてこれは、本当に僕を犬として見ているということなのか…?
それから初日に男から貰ったパジャマを着てリビングに行くと机の上に親子丼が置いてあった。男はいなかったが、それは明らかに男のものではないと悟ってしまう自分がいた。僕はもそもそとそれを食べた。結局僕は生きているんだ。だから嫌な男の家でもこうしてお腹が空き、体を怯えさせながらも口を動かしている。
男の本望は何かよく自分には分からなかったが、僕のような底辺の人間では思いつかないことを考えて実行しているのかもしれない。男がどんな奴か分からなかったが、部屋の広さから、そこそこ金持ちの人間なのかもしれないと思った。なら僕1人養うくらい余裕…いや犬を1匹飼うくらい、成功者の傲慢自己中鬼悪魔人間性悪男には暇つぶしにはちょうどいい……と。
……そういうことか。
それからいつの間にか眠っていた僕がようやく目を覚ましたのが、3日目の朝、今へと戻る。
僕は記憶にないが、きちんと自分のベッドで眠っていた。自分のベッド、そう言うのも何だかここで暮らすことを認めているようで嫌になるが、ここは初日からここで寝るようにと男に言いつけられていた僕の寝室だった。
「…昨日の記憶が無い…」
ふかふかのベッドに体を起こしながら僕は目元を手で擦った。でも、まあいっか。ここにいるということは寝惚けながらここまで辿り着いたことのようだし。まさかあの男が眠ってしまった僕をここまで運ぶ、なんてことは想像するだけで寒気がするくらいだし…。
(…あの男は会社に行ったんだろうか)
僕はもぞもぞとベッドから降りながら、ふと足元にある鎖を目にした。それから近くにある鏡に映る、鎖の繋がった首輪を嵌める惨めな自分の姿を見つめた。
僕はそれを見て思った。
僕はあの男にとって、本当の意味でペットなのだと。言うなれば少し裕福な家にやってきた捨て犬のようなものなのだと。
普通、この状況は捨て犬なら喜ぶべきところでは無いのか?野垂れ死にそうだったところに、ご飯をくれて、風呂にも毎日入れてくれて、ふかふかのベッドで寝させてくれる素敵なご主人様がいる。
こんな、こんな天にも登る幸せなことって、これ以上…………
「………………ふ……」
僕はここに来て初めて涙を流した。
それは悲しみの涙ではない。自分が生まれたことへの、憐れで情けない自分自身への恨みと悔しさの涙だった。
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