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一度疑うと、その考えが頭を支配するのは、おれが弱いせいなのかもしれない。
課長のことをストーカーだと思ったあとは、富永さんがストーカーかもしれないと思ってしまった。
一度取り憑いた考えは、なかなか消えない。
斜め後方に座る富永さんが、いまも見ているような気がしてならなかった。
・・・どうしよ、怖いかも。
資料を揃えて、早く外回りに行こう。
たぶん、それが一番の解決策だ。
机の上に積まれた書類を片付けて、立ち上がった。
「寺田さん、出掛けてくるね。」
「はい、気をつけて。」
資料を持ったままホワイトボードに帰社時間を書き込んで、ロッカーへ向かった。
いつもなら社内皆に聞こえるように「いってきます。」って言うけど、今日は怖くて言えなかった。
音を立てないよう気をつけながらロッカーの鍵を開けて、鞄の中に資料を入れた。
ごめんなさい、行ってきます。
心の中で呟いて、おれは静かに営業部を出た。
------------※ ※ ※------------
外は晴れていた。
秋晴れの気持ちの良い空が広がっていて、とても綺麗だけど、おれの気持ちはくすんでいる。
やだな、人を疑うって。
14日以内に鞄を触れる人って、会社の人か、検査をしてくれた、たかお先生くらいしか思い浮かばない。
あ、そういえば遠野内科の松島さんと飲みには行ったけど・・・。
居酒屋でトイレには行かなかったよね、確か。
松島さんは席を外したけど、おれは行ってない。
つまり、鞄は手元から離れていないのだ。
やだな、松島さんまで疑うなんて。
おれってサイテー。
男性が男性を好きになる比率よりも、異性同士好きになる比率が高い。
ということは、やっぱり誰か女性からストーキングされている確率が高いってことで。
「・・・女の人、ねぇ。」
病院の事務の人。
看護師さん、検査技師さん、薬剤師さん。
たかお先生に、あり得ないけど寺田さん。
クリーニング屋さんのおばちゃんと、コンビニの店員さん。
あと、誰と接触したかなぁ。
ううーん。
考えてたら駅に着いた。
仕事用の交通系電子マネーで改札を抜けながら、深く考えみたけど、やっぱり接点が無さすぎる。
やっぱ女の人じゃない気がするんだよね。
女の子が男性に薔薇なんて贈らない気がするんだもん。
しかし、なんで薔薇だったんだろ。
おれでも知っている花言葉に因んで、贈られたのかもしれない。
それとも、裏の意味とかあるのかな。
怖くなって、スマホを取り出した。
裏の意味、調べてみよう。
ホームの柱の影に隠れながら、おれはロックを外した。
「薔薇、意味っと。」
出てきた意味に、おれは頭が痛むのを感じた。
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