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水が跳ねる。
ぱしゃんって、軽快な音を奏でて
ウミは息を乱すほど声をあげて笑い
疲れたようにプールサイドに上がって寝転んだ。
「あー…笑った、顎痛え」
「いくらなんでも笑いすぎだ」
「悪かったって、拗ねんな」
いつもより幾分にも機嫌がいいウミの声色に擽ったさを覚える。
その瞳が向けられさっきまでの屈託ない笑顔を思い出す。
見惚れるほどに綺麗だった笑顔を
「溺れてんのかと思って心配した」
「…泳いでただけだし」
急に真面目な顔で、優しい声でそんなことを言うもんだから
俺は咄嗟に顔を逸らして拗ねたような声を出して呟いた。
いま、絶対、顔が赤い
熱いから、きっと
見られたくなくて顔は逸らしたまま
すると、頭上からまた少し吹き出すみたいな笑い声が聞こえてくる。
ウミが笑ってる。
心臓がうるさいな
ぶくぶくとプールに口元まで浸かる。
どんな時でもウミのことばかり考えてる。
「融」
見られたくない、見れないそう思っていたのに俺の頭は正直だから
ウミに名前を呼ばれてしまえば
ほら、この通り
「手、掴め」
「…」
その手を取ってしまうし、その瞳に映りたくなってしまう。
手が触れる、指先が絡まる。
心臓から波打つみたいな鼓動で体は熱くなって
細くもなければ太くもない、でもしっかり男とわかる腕に引かれて俺も水の中からいつもの世界へ
水の中は冷たかったはずなのに
すでに熱を持っている体
ウミの手はまだ離れない
髪から垂れる雫にまで敏感になって
俺の体とか心臓とかそんなんじゃなくて
もっと深い内側を掻き乱していく。
「ウミ」
「ん」
「連れてきてくれて、ありがとう」
「ああ」
照れ臭さとなんでかちょっとした悔しさ
甘い喜びに隠れた苦しくなるような気持ちに
俺は少しだけ
ほんの少しだけ、泣きたくなった。
「また連れてって」
「めんどくさい」
「はあ!?そこは分かったって言うところだろ!」
「うるさ」
風の一つも吹かない夏の夜
暑い暑いと文句を漏らしながらも繋いだ手のひらが解かれることはなかった。
少ない街頭に照らされた帰り道
俺たちの足跡は残らず
いつの間にか濡れた髪は乾いて
じくじくと濡れるような熱だけが俺の中に巣くっていた。
この感情を恋といわずなんと呼べばいいのだろうか。
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