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ひでぇ顔…
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「ッ親父…!何で此処に…ッ、」
焦る御手洗が今まで自分が座っていた椅子や机をなぎ倒し
形振り構わずその場から逃げ出していく…
その様子を――
すり鉢状に広がる部屋の上段から見下ろす形で見ていた久米が
蟀谷に血管を浮き上がらせながら大声を張り上げ…
「逃げんじゃねぇっ!御手洗っっ!!
オイおめぇらッ!御手洗を追え!逃がすんじゃねぇぞ!
御手洗には聞きたい事が山ほどあるからなぁっ!」
「「「ハイッ!!!」」」
久米の怒声と共に
その背後から昇竜会の若衆達が一斉にコロシアム内になだれ込み…
それによりパニックを起こした客達によって辺りはより騒然となり――
「…信。立てるか…?」
「ッ…ああ…」
異変を察知した仁が横たわる信に手を差し伸べ…
信は出血の止まらない脇腹を押さえ、仁に支えられながら何とかその場に立ち上がると
例の悪趣味な扉の前で仁王立ちする久米にその視線を向け…
「親父…」
―――来てくれたのか…
久米を見て信はホッと胸を撫で下ろし
思わず全身から力が抜ける…
そんな中
信達の目の前を、御手洗が人々を押し退けながら横切り――
「ッ御手洗…!」
「邪魔だ、退けッ!」
「キャッ、」
御手洗は檻の中にいる信達には目もくれず…
進路上にいたドレス姿の女性を突き飛ばすと
そのまま一目散に走り去っていく
―――クソ…ッ!見張りを任せていた一階(うえ)の連中は何してやがる?!
アイツ等の侵入を許すだなんて…っ、
いや……それよりも何で此処がバレた…?
セキュリティーもジャマーも…
常に完璧な状態で作動していたハズなのに何故――
『…御手洗か……いやなに――
ちょっとイラついてたんで頭に水でも被って――んで。
ドライヤーで濡れた髪乾かそうとしてたら
誤って水張った洗面器の中にドライヤーを落っことしちまってな。
――で。ご覧のありさまってワケよ…』
―――ッ!?まさかあの時か…?
確かに部下もこちら側の情報が漏れたかもしれないとは言ってはいたが…
まさかあんな一分にも満たない停電でそんな事が…、
「ええいっ!退けと言ってるだろうがっ!!
オイお前達っ!奴等を食い止めろッ!絶対に私に近づけるなッ!!」
御手洗は黒服の男達に向ってそう叫ぶと――
自分は椅子や机のみならず
その巨体で人の波を強引に掻き分けながら
一心不乱に久米とは反対方向に突き進み…
―――ッ早く…っ、
こんな時の為に作っておいた秘密の非常用通路から脱出しないと…!
しかしそれには時間が―――
ッ!そうだ…
御手洗がその口角がニィ~…っと不気味につり上げ…
燕尾服のポケットに手を突っ込み、あるモノを掴み取ると
不意にその場で足を止め――
「親父ぃィィィィィィイイイッッ!!!」
「ッ!?」
立ち止まった御手洗が大声を上げ、久米の方に振り返ると
手に持ったものを大きく掲げて見せ…
「コレなぁ~んだ♪」
御手洗が持つ黒いソレは
まるでハンドグリップの様な形をしており…
その先端には赤いボタンの様な小さな突起が付いていて――
「ッ何だアレは…
―――ッ!?まさか…?」
「ンフフゥ~……会場内の皆様も静粛にぃ~!
もしそこから一歩でも動けば…
ドッッカーーーーンッ!!!
そこのステージが爆発して――
出演者もろともこの会場が一瞬で吹き飛ぶことになりますよ?」
「爆発ですって!?」
「ッそんな馬鹿な…なにかの冗談なんだろう…?」
「さっきの停電といい――
これもショーの一環なのか?」
「いやッ…アタシまだ死にたくない…!」
御手洗の言葉に観客達は騒めき出し…
皆そこから動く事も出来ないまま――
不安と恐怖が入り混じった様子で辺りの反応を伺う…
そんな中――
御手洗は起爆スイッチと思しきものを掲げたまま
ジリジリと後退し始め…
「――ッ!?御手洗ッ!!」
「!おおっとぉ~……親父も動かないで下さいね…?
例え仮とはいえ――
昇竜会の若頭を……こんな所で失いたくはないでしょう…?
忠(ただし)坊ちゃんの為にも…」
「くッ…、」
その一言に…
久米は一瞬躊躇いを見せるが――
―――ッあんなもの……どうせはったりに決まって――
「…止めておいた方がいい。」
「ッ!?」
御手洗の言葉を聞かず、その場から動き出そうとした久米の肩に
不意に背後から伸びた何者かの手がポンと置かれ…
「ッ…稔(みのる)先輩…」
「フフ……久しぶりに勝治郎君からそう呼ばれると何か照れるなぁ~…
そんな事より…」
久米の背後からノートパソコンを開いた状態で現れた稔が
その顔を険しくしながら口を開く
「今は――アイツの言う通りにしておいた方がいい…」
「…と、言うと…?」
「コレ見て。」
「…?」
稔が視線を御手洗に向けたまま、手にしたノートパソコンの画面を久米に見せると
そこには何処かの設計図の様な画(え)が映し出されていて…
「さっき苦労して手に入れる事の出来た地下六階(ここ)の見取り図なんだけど…
画面中央……今信達が居ると思われるステージ部分の図面を見て。」
「…ッ!?これは…」
言われて久米がそこに視線を向けると…
ステージ下にある収納スペースの更にその下に――
人が十人くらい入れそうな…
それでいて四方を壁で囲まれた
完全に隔離された謎の空間が、ぽっかりとその口を開けており…
「…ね?不自然な空間があるでしょう…?」
「確かに…」
「そこに爆発物があるかどうかは分からない……けど――
そこに何があるか分からない以上…
迂闊に手を出さない方がいい…」
「ッ、」
稔の言葉に久米は悔しそうに顔を顰め…
その視線を再び御手洗に視向けると
忌々し気にその口を開く
「ッだが……どちらにしろ御手洗(ヤツ)は袋の鼠だ。
何しろこのコロシアムの出入り口は今俺の後ろにあるこの扉のみだからな。
もしヤツがあの起爆装置を掲げたまま俺の横を通ろうものなら――
このドスで…
起爆装置を持つヤツの腕ごと切り落としてやる…!」
そう言うと久米は着流しの懐に忍ばせてあるドスの柄部分を握りしめる…
すると御手洗は起爆スイッチを掲げたままニヤリと不敵な笑みを浮かべると
近くの座席の下を後ろ手に探り出し…
「ンフフ……どうやら――
この私が追い詰められたと……そう思ってらっしゃるみたいですが…
ざぁ~んね~んでしたぁ~…♡」
「ッ、何…?」
「この私が――追い詰められる可能性のあるこの地下で…
“出入り口をたった一つだけしか用意してない”なんて事――
あるワケないでしょうっ?!」
カチッ!と御手洗の探っていた座席の下から小さな音が聞こえ…
それと同時にウィィィン…という機械の作動音が微振動と共に
コロシアム内に低く響き渡ると…
御手洗のすぐ背後に設置してある階段状の座席が
折り重なるようにして畳まれながらゆっくりと左右に開いていき――
「ッ!?アレは…ッ、」
「ンフフ…」
左右に開けた座席の背後から姿を現したもの…それは
スチール製で出来たスライド式の扉で――
「どうです…?驚いたでしょう…?
こんな時の為に造っておいた秘密の脱出用通路…
まさかコレが役に立つ日が来ようとは夢にも思いませんでしたけど…」
「ッあんな隠し通路があっただなんて…、設計図にはどこにも――」
「御手洗テメェ…ッ!」
「ウフフッ!そこから動かないで下さいね?親父…
さて……それではこれで――
私は此処からお暇(いとま)させてもらうとしますかね?」
そう言うと御手洗は起爆スイッチを掲げたまま
苦虫を噛み潰した様な顔で自分の事を睨みつけてくる久米に不敵な笑みを見せると…
ゆっくりと後退りながら扉の方へと近づいていき…
「クソッ、、このままでは…っ!」
その様子を…
ただ指を銜えて見ているしかない久米の視界の端に――
一つ小さな影が…
まるで風に流されるまま宙を舞う羽の様に軽やかに人込みを避けながら
素早く御手洗に近づくのが見え…
―――!?アイツは――
「ンフフッ……では皆さん。お達者で――」
「…何を言ってるんすか…?
“ソレ”を持ったまま――
アンタを此処から逃がすワケがないじゃないっすか。」
「な…ッ!?」
久米に気を取られ…
そのせいで周囲が見えていなかった御手洗は
不意に聞こえてきたその声に焦りながら声のした方に振り返ろうとした次の瞬間――
御手洗は起爆スイッチを持つ手首に強い衝撃を受け…
「グッ…、!しま…ッ、」
「ヘッ…」
御手洗のすぐそばまで近寄っていた人物の手刀が
横一線に薙ぎ払う様にして御手洗の手から起爆スイッチを叩き落とし…
御手洗は手首を押さえ――
焦りと苛立ちが入り混じった表情で目の前の人物を睨みつけると…
実に苦々しくその口を開いた
「ッ貴様は……片瀬…ッ!」
「駄目じゃないっすか理事長……こんなおいたしちゃあ…
さ。俺と一緒に――大人しく親父のところに行きましょう…?」
そう言うと片瀬はニコニコと微笑みながら御手洗に歩み寄り…
御手洗はさっきまでの余裕が嘘のようにその表情を引きつらせながら
近づいてくる片瀬を前に後退る
「くッ…、」
―――あとちょっとだというのに……このままでは…ッ!
御手洗はまだ何か手はないかと後退りながら周囲に視線を彷徨わせ…
片瀬がそんな御手洗に「諦めが悪いっすよぉ~?りじぃ~…」と
意地の悪い笑みを浮かべながら呟いた次の瞬間
御手洗の背後にあったスチール製のスライドドアがシュン…という音と共に開き――
「伏せろ!御手洗っ!」
「ッ!?」
「う”ぇっ!?」
開いたドアから全身ボンテージ姿の男が姿を現し…
手にしたショットガンのアクションバーを一度ガションッ!とポンピングさせると――
片瀬にその銃口を向け…
「死んどけ。」
「ッ!?!」
ズドンッ!とボンテージ男は躊躇いなく片瀬にショットガンをぶっ放し…
片瀬は咄嗟にその身を大きく翻しながら
右側に飛び込む形でジャンプしてその銃弾をかわすと
代わりに吹き飛んだ木製のテーブルに目をやり…
「ッ、あっぶぇ…、」
男が放ったショットガンの弾はスラッグ弾だったらしく
吹っ飛んだ木製のテーブルには大きな風穴が開いており…
―――スラッグ弾(単発弾)だったから良かったものの…
これがバックショットやバードショットだったらヤバかったかも…
「ッ…、」
両手から地面に着地した片瀬は
そのままグルンと前転してから御手洗の方を振り返る…
すると御手洗はボンテージ男と一緒にドアの向こうに駆けこんでいて――
「あ”っ!待ちやがれっ!!」
「フッ……あばよ。」
ボンテージ男が駆け寄って来る片瀬に向け、中指を立てながらそう言うと
スライド式の扉がスゥーっと片瀬の目の前で閉じていき…
「ッキショウ…ッ!!」
駆け寄った片瀬がバンッッ!!と閉じたドアを叩き――
なんとかこじ開けられないかとドアの継ぎ目に指をねじ込もうとするが
爪先すら入らず…
「あ”…かね”ぇ…っ、」
「っのぼるーーーっ!!!」
「ッ!?」
扉をこじ開けようとする片瀬の耳に葵の叫び声が聞こえ…
ハッとして振り返るとそこには信たちの入る檻の前で
泣きながら鉄格子を揺する葵の姿が見え…
「開けてっ!早くここの扉開けてよっ!!」
「落ち着けって葵さん!」
「っ落ち着けるワケないでしょうっ!?
信…またいっぱい血が出てる…!…このままじゃ――」
「あ…おい…」
「ッ!信っ!!」
消え入りそうな信の声に、葵は顔をくしゃくしゃにした泣き顔を信に向け…
信は仁に支えられながら徐々に霞む視界の中でそんな葵の姿を見つけると
その口元に力ない笑みを浮かべ…
「フッ……ひでぇ顔…」
「…ッ、信だって…!
そんな事より今ここを開けるから…っ、待ってて信!
―――のぼる…?」
信からの返事はなく…
見ると信の顔は真っ青で…
「ねぇ…のぼる…?どうしたの…?ねぇってば…!」
「…ッ!!マズイ…!
おいしっかりしろ信ッ!オイッッ!!」
仁が信の頬を軽くペチペチと叩くが反応がなく…
「信ッ!!」
仁の肩に回した信の腕がズル…とずり落ち…
次の瞬間――
全身の力が抜け落ちた信の身体は
まるで糸の切れた人形の様に地面へと吸い寄せられて行った…
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