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ミーハたちが去った後、そのことに1番騒いだのはルナだった。
「あっ、アイツら! 信じらんねぇ!」
デザートワームの肉の串を両手に掴んだまま、デカい声で悪態をつく。考えて見りゃ当然のことで、多分ミーハらと一緒に王都に帰る予定だったんだろう。
ルナと一緒に来た剣士たちは、デザートワームボスと一緒に王都に帰ったヤツもいるけど、大半はここに残されちまったみてーだ。
残ってる連中は、分かりやすく肉に群がってて、ルナと同様悪態をついてる。
ただ、魔法使いに対する信用は、あんま高くねぇらしい。
「迎えに来ると思うか?」
「んな訳ねーな」
と、みんなそれぞれ諦め顔で、割り切って飲み食い再開しててスゲーなと思った。
「こうなったら、デザートシャーク狩りでもするか」
「そーだな、品薄なんだっけ?」
「今度はシャークのボスも出たりしてな」
そんな物騒なことを言い合い、酒を飲んで笑ってる討伐隊の剣士たち。
勿論、タオもそん中の1人だ。
「おおー、ボス戦もっかいやりてぇーっ!」
肉を食いながら大声で叫んでて、呆れ半分頼もしーなと思った。
ミーハたちの消えた跡をちらっと見て、軽くなったポケットに手を突っ込む。
お目付け役の魔法使いたちに連れ去られる直前、オレの方に涙目で片手を伸ばしたミーハの姿が、脳裏に焼き付いて消えそうになかった。
つい衝動的にキスしちまったけど、どう思っただろう? ちょっとは何か、思い出してくれねーかな?
はあ、とため息をついてると、後ろからバン、と背中を叩かれた。誰かと思ったらハマー(人間)で、「行っちまったな~」って緩く言われた。
「せっかく会えたと思ったのにな~」
「まーな」
残念そうなぼやきに、短く同意の言葉を返す。
前にオレらの町で会ったことも、一緒に宝探ししたことも、全部忘れてるミーハに、ハマー(人間)も感じるところがあったんだろう。
「ホントに忘れちゃったんだね……」
ため息と共にそう言われたけど、オレの方も「だな」と返事するしかなかった。
ボス討伐の宴会は夜まで続き、オレらもルナたち討伐隊も、そのままオアシスに1泊した。
その後は、デザートシャーク狩りに向かう連中と、砂漠の町を目指して移動する連中とに分かれるみてーだ。
ハマー(人間)の行商も取り敢えず終わりってことで、オレらは予定通り砂漠の町を馬で目指す。
かなり軽くなった荷馬車に、オアシスで仕入れた民芸品や瓜を乗せ、空いてるスペースに金を取って剣士も乗せる。
ルナもその内の1人で、どっかりとデカい態度で荷馬車に寝転がってて邪魔だった。
他のヤツらは時々馬車の横を走ったり、御者台に座ってハマー(人間)と話したりしてたっつーのに、相変わらず傲慢な態度でムカつく。謙虚って言葉を知らねーのか?
ただ、アイツらが一緒で、少なくとも道中のモンスター駆除はかなり楽だったのも確かだ。
ボスを倒したお陰か、デザートワームの湧き出る頻度は少なかったけど、その分デザートライオンも出たし。
デザートラビットも結構獲れて、それなりの実入りはありそうだった。
荷馬車に乗せた瓜は、残念ながらやっぱ途中でヒビが入って売り物になんなくなっちまったけど、全員で割って豪快に食えば、渇いたノドも満たされた。
さすがに砂漠で野営はできなかったけど、なんとか荷馬車を走らせ切って、夜の内に砂漠の町に到着した。
町の端で荷馬車を停め、火を囲んでラビット肉焼いて野営する。
塩やたれをハマー(人間)が提供して、簡単にさばいて焼いただけの肉も美味かった。
「いい岩塩を仕入れたんだよ~」
緩い口調で笑いながら、ハマー(人間)が満足そうに肉を頬張る。
オレらがデザートワームに囲まれてた時、コイツはコイツなりに自分の仕事をしてたみてーだ。
「あー、行商の護衛だと、調味料に困んねーからいいなー」
剣士の1人がしみじみ言い、「でしょー」とハマー(人間)が自慢げに胸を張った。
「王都に戻るんなら、護衛させて貰えねーか? 格安でいーからさ」
剣士の申し出に、ハマー(人間)は「うーん」と悩んでる。
「護衛は嬉しいんだけど、もうちょっと先まで行きたかったんだよね~」
「どこまでだ?」
再び「うーん」と唸りつつ、オレらの方にちらっと視線を向けるハマー(人間)。
「西山の方に墓参りに行きたくて……」
って。その図々しい思惑に、おいおいと思った。
ハマー(人間)の言う墓参りっつったら、蛇塚のアレだろう。いや、そもそも遠縁の誰かも分かんねぇヤツの墓だったんじゃなかったか?
「蛇塚行くんなら、別料金だぜ。もうミーハもいねーし、『劫火』もねーぞ」
「ええっ、でも蛇塚は壊したし、毒蛇はもう出ないよね!?」
意外そうに言い返されて、そうだっけ、と記憶を探る。あの後色々あり過ぎて、些細なことは覚えてねぇ。
オレにとって蛇塚は、砂漠と同レベルのトラウマだ。
ただ、オレと同じくらいトラウマになってもおかしくなかったミーハが、今も平然と「転送」を使えてんのが幸いだった。
「まあ、でもソイツの申し出は受けといた方がいーんじゃねーの? 何なら、オレと交代でいーぜ」
オレの突然の言葉に、ハマー(人間)とタオが「ええっ」と驚く。
でも、元々砂漠とその周辺オアシスまでの護衛依頼だったし。この後王都まで戻るか、ここで解散かは未定だったはずだ。
オレらの地元はすぐそこだし……何なら西山までは行ってもいーけど。いつまでも家を放置できねーし、王都に戻る気にもなれなかったから、交代して貰えんならちょうどよかった。
「アル、お前、それでいーのかよ?」
タオにじろっと睨まれて、「ああ……」って答えて目を逸らす。
自分でも、これでいーのかはまだ結論が出せねぇ。けど、ミーハと暮らしたあの家を手放したくねぇとも思ってる。
あそこは「家」だ。オレとミーハが帰る「家」。その家を、「家族」に黙って手放すなんてできねぇ。例えミーハに記憶がなくても、思い出は絶対失くなんねぇって信じてるから。
「一旦、家に帰ってから決めてぇ」
ぼそっと呟いて顔を上げ、タオとしっかり視線を合わせる。タオはしばらく黙ってたけど、「まあいーや」って肩を竦めた。
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ここまでお読みくださってありがとうございます。
そろそろゴールが近付いて来ましたが、まだもう少し冒険が残っています。
年内は無理かと思いますが、次の「地元編(仮)」までしばらくお待ちいただけると嬉しいです。
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