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幸多には幸多の事情があって、おれの知らないとこでまた無理難題を押しつけられたり厭な目に遭ったりしてて、それは言ってくんないとおれにはわかんない。それは逆の立場でも同じことで、おれにはおれの都合があって、考えとか好き嫌いとかあって、人には人の乳酸菌。
可愛い仲直りをして、あっという間に夏休みになる。幸多とはしばらく会えない。でもおれが礼介くんのとこにいる間、幸多は自由だから他の友達と遊べる。
なんそれ。
正義のための自己犠牲は愛、みたいなドラマと映画を観て、礼介くんのところへむかう。あー、幸多に会いたい。好きな人に好きなときに会える人生がいい。理由とか言い訳とかなくて会いたいから会うし触りたいから触れる世の中であってほしい。でもどんな世界になっても結局幸多がおれと同じ気持ちじゃないから意味ないよね。あーあ。
礼介くんはおれの派手な服をみて、なんか言いたそう。洋服ってほんとすごい。色々ごまかせる。便利。礼介くんはもたもたひらひらした服で、暑くないんだろうか。
初めて案内された書庫で、おれは写真を見つけた。
なんでもない瞬間の、それ。
二人とも、撮影者になんか言おうとして間抜け顔。
おれは久しぶりに笑う。面白いとかおかしいとかじゃなくて、なんだか嬉しくて笑う。多面体の全部のおれが笑う。重苦しい家具。散らばった書類。とりあえずで置かれた観葉植物。後ろでピンぼけしてるなんかの機械。灰色の長方形。ボタンとツマミ調整。茶色の皮のソファで、礼介くんと罫くん。うわあ、スーツだ。
罫くん、インターネットに転がってる画像よりだいぶ力の抜けた感じ。やっぱメディアに出てるときはかっこつけてるもんね。夏なのかな。シャツのボタンを二つ三つ開けて、袖まくり。
礼介くんは今より健康的だ。細長い脚。つーか、脚、長っ。あと普通にイケメンでムカつく。目解家の人間だなあ。こんな似合うならふだんから洋装でもいいじゃんと思うけど、この頃より今のが更に痩けてるし不健康に青白いし、駄目かも。
名探偵の瞳は愛を含んでいて、おれはちょっとドキッとする。もしかしてこの写真、撮ったのって。
「シヅさんだよ」
なんだ。お母さんじゃなかった。
「へえ。それにしては視点高いけど」
「床に段差があるんだよ」
やっぱり、お母さんじゃなかった。
これ、何年のだろう。もしかしたらお母さんと名探偵がまだ会ってなかった頃かもしれない。お母さん、礼介くんのいたの、数ヶ月だって言ってたしなあ。……………長い人生の、たった数ヶ月。
ねえねえ礼介くん。その指輪の片割れを持つ人とは、いつ出会ったんですか。
今こそチャンスだってファイティングポーズするおれと、いやまだ心の準備が出来てないですよう、かぶりを振るおれがいて、リアルのおれはなんだか上手に振る舞えない。この頃の礼介くんは罫くんがナンバーワンでオンリーワンだったのかな。聞いてみたら否定された。あと、なんでかちょっと怒られた。なんでよ。好きな人がいるって素晴らしいことだよ。
普通は、という言葉を、礼介くんは使う。
普通の大人の男二人が、腕組んで往来を歩いたり、やたら電話しあったり、狭いクローゼットに一緒に隠れて犯人を待ったり、冷凍庫に監禁されて身を寄せあったり、寝る前にお互いを誉めあったりしないと思うんだけど。
男の子だったら女の子を好きになる、って、おれには本当によくわからない。お母さんが大正解すぎた。美人で聡明で優しくてあたたかい。女の人を好きになるならお母さんみたいな人がいい。でもあんなに楽しくて安心出来る人、たぶん地球上でいないと思う。これってマザコン? でも小さいときに親を失ってたらマザコンにもなるよ、そりゃ。コンプレックスだよ。
おれはおれが大好きな幸多を想う気持ちを思う。きっと性別か年齢とか人種とかいろんなことが違ってても、どんな設定でも条件でも、幸多が幸多だったらなんでもいい、こうやって大好きになってたよ。可愛くて仕方なくて、尊敬したり、憧れたり、仲良しの証拠にケチつけてみたり、喧嘩したり、同じタイミングで同じことを言ったり、音楽の趣味が全然合わなかったり……………そばにいなくても、その人のことを考えるだけで、正しくありたいとか、優しさとか、愛とか勇気とか沸く感情がおれの世界を輝かせる。
そうやって得たものは、きっと、おれの前から幸多がいなくなっても、おれのなかで活き続ける。
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