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αとΩ
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陸「お前は結構な甘党なんだな」
恭二郎「まあ、そうっすね。どちらかといえば」
屋上のフェンスに並んで背を預け、パンをかじる二人
初夏の爽やかな風が白いシャツの袖を揺らす
今日は良い天気だ
アンパンを片手に、パック入りの甘いコーヒー牛乳に口をつける虎岩の様子を俺はまじまじと見ていた
虎岩はアンパンに加えて、自前の大盛り焼肉弁当を持っている
甘みと塩味を一度に味わう気のようだ
恭二郎「先輩、これあげます」
虎岩がおもむろに制服のポケットに手を突っ込み、ゴソゴソと何やら探り出したかと思えば、なんとも可愛らしいイチゴ柄の絆創膏を取り出した
陸「なんそれ」
恭二郎「あげます」
陸「いや要らんし」
時折こういう奇行に及ぶというのが、最近わかった奴の生態である
恭二郎「クラスの女子がくれたんすけど、俺の趣味じゃないんで」
陸「俺の趣味でもねえよ」
恭二郎「先輩、ドジだから必要じゃないすか、絆創膏」
陸「はっ倒すぞ。人から貰ったんなら大事にとっとけよ」
虎岩は少しだけ口角を上げて楽しそうに喋っている
その様子につられて自然と俺の頬も緩むのだった
奴との距離は以前よりも縮まっているように思えた
恭二郎「…先輩って、Ω、なんですよね」
唐突な話題転換に、心臓がドキリと小さく鳴った
恭二郎「入学式の日に初めて先輩と会った時から気づいてたんですけど」
どこを見るでもなく視線をやや下に落として、時折俺の顔色を伺うように視線をこちらに寄こしながら喋る虎岩
αはΩの匂いに敏感、これは当然常識ではあるが、出会った時点で気づかれているとは予想外だった
恭二郎「Ωって世間じゃ、その…アレですけど、先輩は周りに溶け込んでて、バスケとかも、上手いし」
いつも隣のコートから見てるから、なんて言いながら虎岩は後ろ頭に手をやってポリポリとかいた
恭二郎「その、何が言いたいかっていうと…なんていうか…」
虎岩は急にはっきりしない態度で、もごもごと言葉を詰まらせる
言いたいことは何となく分かった
俺の事を褒めようとしているが、デリケートな話題ゆえに言葉に迷っているのだろう
陸「周りに溶け込んでるって言えばそうだけど、結構頑張ってんだぜ」
俺は重くなりかけた空気を振り払うように、脚をぐっ、と伸ばし姿勢を崩した
陸「毎日薬飲まないとだし、だりいんだこれが」
さっぱりとした俺の態度を見て安心したのか、虎岩の表情が緩む
恭二郎「でも、周りも先輩の事受け入れてるし、やっぱ先輩の人柄っすかね」
そう言って虎岩はストローに口をつけコーヒー牛乳を飲み干した
俺が性を隠していることを、虎岩は知らない
俺は少し複雑な気分になりながら、一呼吸置いて口を開く
陸「…周りには言ってない」
虎岩の動きが止まる
陸「βって事にしてる」
校庭で男子生徒のはしゃぐ声がやけにうるさく聞こえている
虎岩の顔には、やってしまった、という心の声が全面に出ていた
陸「いやさあ、なんか、周りに気ぃ使われるの嫌だしさ…」
恭二郎「先輩」
陸「?」
気丈に振る舞う俺の言葉を虎岩の言葉が遮った
そして虎岩は俺の目を真っ直ぐに見て、ゆっくり口を開いた
恭二郎「俺には、話していいですから」
陸「な、何だよ、急に…」
恭二郎「周りに言えない事、俺には言っていいですから」
その目は真剣そのもので
胸の奥の何かをぐっと掴まれるようで、俺は目を逸らしてしまいたいのに、それができなかった
恭二郎「俺には嘘吐かなくていいですから」
俺は驚きと同時にときめきにも似た感情を抱き、相槌を打つことすら忘れていた
数秒後、虎岩の顔がみるみる赤くなったかと思うと、本人も恥ずかしくなったのか、ふい、と顔を逸らした
その姿になんだか俺まで恥ずかしくなり、慌てて言葉を探す
陸「……何だそれ!なんかきしょ!」
恭二郎「な、人が真剣に…」
俺は軽くパニックになって、つい大きな声で冗談っぽく言った
虎岩は赤いままの顔をムッとしかめて、アンパンの残りを口の中へ押し込んだ
続けて俺も残りのパンを無理矢理口へ押し込む
二人並んで空を見ながら、無言でモグモグと口を動かす
綺麗な空だ
青く澄んでいて、薄い雲が穏やかに流れている
『俺には嘘吐かなくていいですから』
虎岩の言葉が、耳の奥に張り付いて消えない
自慢するような事ではないが、俺は自分の性に関しての弱音を他人に吐いたことがない
両親にすら、平気な素振りを見せた
弱音を吐いてしまえば途端に、本当に自分が駄目になってしまうような気がしていた
初めてだった
胸の真ん中の、ぼんやりと空いた穴に温かい何かが流れ込んで満たしていくような、妙な気分だった
特製焼きそばパンの旨味の効いたソースの風味が鼻を抜ける
ごくり、と飲み込むと、虎岩も同時にアンパンを飲み込むところだった
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