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千鶴さんは会話の繋げ方が巧かった。
豊の同期という事で俺の仕事をある程度把握していたのもあるのだろうが、いつの間にか仕事とは関係のない話まで、引き出すのも、聞くのも、そう言えばなんて切り出して別の話題を振ってくれるのも。
初対面とは思えないほど盛り上がる千鶴さんとの時間は単純に楽しかった。
「隼人さん、迷惑でなければもっと砕けた口調で話しても構いませんか?」
「勿論!俺もその方が嬉しいです」
「よかった。じゃあ改めて…よろしく、隼人」
「うん…よろしく」
2杯目を飲み干し、次は何にしようかとパネルに手を伸ばした時だった。
俺に見えないよう配慮したのだろう。床に置いていたスマホに千鶴さんの視線が一瞬だけ落ちた。
そうか、千鶴さんはまさか豊が来る気もないだなんて思っていないのだから、連絡を待つのも無理はない。
でも今は、俺と過ごしている今は、豊の事なんか思い出されたら面白くない。
「…豊、遅いね。隼人の方に何か連絡は行ってない?」
「あー、えっと…ちょっと待ってね」
注文を諦め、ポケットからスマホを取り出す。
豊とのトーク画面を開くも、そこに連なるやり取りは目の前にいる千鶴さんを騙すための作戦会議でしかない。
「何もない。今どんな感じか聞いてみるよ」
「悪いね。ありがとう」
千鶴さんはいい人だ。
俺を疑いもせず、恋人の友人だからと気を利かせてくれて、急に現れたΩ性の男をギラついた目で見たりもしない。
『そろそろ連絡くれ〜千鶴さんに見せれるようなヤツ』
見せかけだけでもと打ち込んだ文字を豊に送信した。再びポケットにスマホを仕舞い、残り少ない千鶴さんのグラスを指差し、問う。
「今送ったんで、もう一杯いっちゃいましょ?ほら、ココ結構おつまみも豊富だし」
「はは、隼人は飲ませ上手だよね。強いんだ?」
「そうスねー、家でも1人で飲んでるから強い方かも」
少しでも長く、千鶴さんと話していたい。
どうせあなたの恋人は、俺というスパイを寄越すような疑い深い面倒な男だ。普段から束縛気質で疲れているんじゃないか?それなら息抜きも必要だろ。
俺は楽だよ。豊を知ってる。
豊も俺を信用してる。だから変に怪しまれない。
「じゃあ次は…隼人ワインは飲める?瓶で来るから迷ってるんだけど」
「全然飲めるよ〜。頼もうよ」
食べ物と、酒の好みも案外似ているし、相性も悪くないんじゃないかな。
ねえ、千鶴さん。もっと俺と話そうよ。もっと俺を知ってほしい。
これは豊の作戦通りと言えるのだろうか。
俺の思惑通りだと言えるのだろうか。
憎んでいた筈のαに惹かれるのは、少しずつ回り出した酒のせいだ。
微かに太ももを震わせた振動に気付かぬふりをして、真っ赤なワインを千鶴さんのグラスに注いだ。
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