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優しい君
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クラスメイトは皆、帰る仕度をしたり部活の準備をはじめる。
俺は部活にはどこにも入っていないので、早く勉強をするために帰ろうと身仕度を始めた。
今日はいつも以上に勉強に身が入らなかった。
勉強に集中して早くこの重い気持ちをどうにかしたい。そう考えながら席を立とうとしたところで、一テンポ早く高橋が席を立った。
なんてタイミングの悪い、と思いながら。さすがに並んで教室から出るのだけは避けたかったので、高橋が出ていくのを待とうと上げかけていた腰をもう一度おとす。
教科書などは全く持ってきていないようで、身軽のまま高橋は席を立ち、後ろの扉から出るのか俺の方へ振り返り足を進めた。
俺の横を通る一瞬、高橋はさりげなく俺の机に手を乗せ、ある物を俺の机の上に置き、何事も無かったように教室を出ていった。
高橋は何事もなく教室を出たが、俺にとっては全く何事もないことではなく。
つまり何が言いたいかというと、それは俺の机に高橋の手によって、さり気なく置かれた、小さく折りたたまれた白い紙に問題があるからである。
俺はその紙をしばらく凝視した。
あまりに唐突だったため中々頭がついていかない。
これは…ゴミだろうか。
でも、ゴミにしては綺麗に折りたたまれている。
俺の机の上で白い紙切れが異様な雰囲気を醸し出していて、どうにもいたたまれない。
そのまま気づかずにゴミだと思って捨ててしまおう。という考えが頭をよぎる。
だが、ゴミじゃないならコレはいったい何なんだ?という疑問が浮かんでき、自分なりにこの状況を分析してみる。
もし開いてみて中に噛み終わったガムや集められた消しカスなんかがはさまっていれば間違いなくゴミのうえに嫌がらせだろう。(高橋は勉強などしていなかったので、消しカスという案はまず無いとみていいだろう)
それか中に「卵・牛乳・玉ねぎ……」などと、明らかに買出しのメモと思われる物だったら、忘れ物だろう。
多分ないと思うがもしそうだったらこっそり処分しよう。
あとは、何だろう…その他にコノ白い紙切れの存在理由は何かあるか?
頭の端にはもう既に正解であろう答えが出ているが、その現実を直視したくないため、苦しまぎれに色々と考えてみるが全然うまくいかない。
でも、そこにある物はある訳であって、俺が願った所でガムが包まれたゴミになるわけでも、メモが書かれたメモ用紙になるわけでもない、というのは自分でも分かっている。
俺は今一度、問題の折りたたまれた白い紙を見つめ固唾を呑む。
見てみるしかないか。本当にコレがなんなのかも気になるところだ。
意を決して手を伸ばす、手は緊張か又は恐怖からか小刻みに震えていて、鼓動もいつもより早い気がする。
折りたたまれた紙を手に取り、開いてみるとそこには高橋の手によって書かれたであろう文字で「屋上に来てほしい。」とだけ書かれていた。
呼び出しか……
早くなっていた鼓動がさらに早くなり、冷や汗まで出てきそうだ。
やっぱり何か言われるのか、何を言われるんだろう。「屋上に来てほしい」だけでは高橋がどういうつもりで呼び出してきているのかが分からない、せめて何か付け足してほしかった。
でも「怒ってるから屋上来い」なんて書かれていたら余計に行きにくくなるだけだろうなとは思う。
本当にゴミとかだったらよかったのに。と溜息がでて、それはそれで悲しい気はするが…と頭のどこかが考える。
どちにしろ逃げるわけにはいかないよな…
気が重いを通り越して、気が下から凄い力で引っ張られている気分だ。
実際に引っ張られている訳ではないだろうが、なかなか椅子から立ち上がれる気もしない。
そうこうしているうちにも高橋は屋上で待っていて、あんまり待たせて更に怒りを増大されてはまずいと考え、重く引っ張られる腰をなんとか上げた。
そのまま、ズルズルと体を引きずるように屋上までの道のりを歩き、屋上の扉を開ける時には
もう一生分の溜息をついたんじゃないかと思ったくらいだ。
最後にもう一度盛大な溜息をつき、屋上の扉に手をかける。
屋上の扉はとても厚く重く閉ざされているように思え、ドアノブは冷たく氷のようだ。
もしかしたらこの扉は開かないようになっていて、高橋も開かない扉に諦めて帰っているかもしれない。なんて夢をみるが、扉が開かないなんてことはなく、俺が少し力を込めると何の苦もなく扉は開いてみせた。
開いた扉からは涼しい風が吹いてきて、俺の考えすぎて熱くなった頭を少し冷やしていく。
日はまだ沈んでなくて、辺は明るい。
下校中の生徒や部活をしているであろう生徒の掛け声や楽器の音がぼちぼち聞こえてくる。
俺を呼び出した高橋は、フェンスから下を覗き込み下校をしている生徒たちをジッっと見ていたようで、俺の出した扉の開閉音を聞いてすぐにこちらを振り返った。
俺は振り返った高橋のパッと輝いた顔を見た瞬間に、ここに来るまでのあの不安や緊張がガッタっと崩れていったのを感じた。
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