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優しい君
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母に言われた通りに、風呂に入るため、風呂場に入り、服を脱ぎ、浴槽を開ける。
何時ものくせで、お湯の色と臭いを確認する。
柑橘系?…
この香りは嫌いじゃない。母は入浴剤やボディーソープなどのバスアイテムが好きなようで、入浴剤は毎日違う物をつかているようだ。たまに凄く甘ったるい臭いや、ドギツイ色合いの日などもあり、それによって俺の風呂での癒しも決まる。
こう毎日ころころと変えられるのはあまり好きじゃなかたが、これが母の楽しみの一つだということはわかるので、口出しをするつもりはない。
父はあまりこういうのは、好きそうではないので大丈夫なのだろうか、と思った時があり。父の風呂上がりを一度観察したことがある。父の入っていた浴槽には色も臭いもなく、ただの温水が溜められているだけだった。どうやら母は俺と自分が風呂に入った後に風呂の栓を抜き、また新たに湯を溜めていたようだ。
俺はその徹底ぶりを見たときに、母のことを少し怖いと思った。
どうゆう経緯でその行動に至ったのかはわからないが。その行動には母の父への拒絶や、諦めようなものを感じた。
きっと浴槽の残り香などで父も気づいているだろう。母の方も、父が気づいていることは察しているんじゃないだろうか。けど、誰も何も言わない。
母は、毎日いろんな入浴剤を楽しみ。その楽しみを洗い流し、父の入る湯を溜める。
父はその残り香が充満する浴槽の、綺麗な透明の湯に毎日浸かる。
俺はこの甘い臭いのする湯が、父に知れない所で流されることが、果たして正解なのだろうかと考えつつ、毎日色や臭いを確かめる。
いつも、入浴はしっかり目に浸かり、体を芯まで温めて、肩や足の筋肉や脳の疲れをできるだけほぐすのだが、今日はシャワーだけにしておいた。
自分好みの香りがする浴槽は魅力的だったが、早く高橋に返事を返さないといけないと思い、頭をガジガジと洗いながらも文章を考える。
高橋に心配してもらっていたということが、俺は嬉しかった。
だから、素直にその気持を伝えたいな、と思ったのだが、何と打つべきか迷ってしまう。
ここは普通に、ありがとうと言えばいいと思うのだが、それではさっきの素っ気ない文章とあまり変わらないような気もするし。
心配してくれてありがとう。気にかけてもらって凄くうれしかった…
な……なんか、違うな。凄くうれしかったっていうのは、言いすぎかな。ここは嬉しかったってだけでもいいかな。
そう思いながら頭を洗う手を早め、一気に洗い流す。
風呂から上がると、父が帰ってきていて、テーブルには既に夕飯の支度が調っていた。
「お帰り」
「あぁ、ただいま」
それだけ交わし椅子に座る。父はいつも帰りが遅く、一緒に夕飯をするのは久しぶりだ。
俺と、母と、父の三人がテーブルにつき、会話が弾むなんてことはなく、それぞれ黙々と食事を摂る。
居心地が悪いのと、メールの返信のこともあって、いつもより早いペースで箸を動かしていると、父がおもむろに口を開いた。
「7月あたりになると思うんだが、もしかしたら東京への転勤の声が掛かるかもしれない。まだはっきりとした事は聞いてないんだが。職場で動けるのが今俺くらいだから間違いないと思ってもらっていいと思う」
「転勤?それって…」
母がちょっと待って、と口をはさむ。母の言いたいことを察してか、父は気にせず話を続けた。
「転勤といっても1年くらいでこっちに帰ってこれるみたいだから、向こうには俺一人で行こうと思ってる」
「あ、そうなの」
母はホッとしたようで、それならばと、何時もの調子で
「7月からってことは、少しづつ荷物をまとめといた方がいいかしら?」と質問する。
父はその反応をさして気にする様子もなく
「まだ正式に決まった訳じゃないし。足りないものは買うか送ってもらうつもりだから、そんな大掛かりに荷造りしなくていいよ、それより他に色々と決めておかないといけないことがあるから」
とこれからのことで必要になってくる事などを母に伝える。
母は、相槌を打ちながら父の話を聞いている。
この二人が普通に会話をしているのを見かけるのは久しぶりのような気がする。
夫婦が1年の間離れるというのに、その話し合いはいつもよりいっそ晴々としている気がするのは、どうなんだろうか。
仕方ないか、二人とも1年間の自由を手に入れるのだ。かく言う俺もその1年の間は、変ないざこざが無いと思うと少しホッとしている。
父の話も終わり、他に話すことは此れと言ってないため、食事が終わり次第それぞれ自分の時間を過ごす。
俺は自室に戻りメールの返信を打とうと、ふと時計をみると結構な時間がたっていて。こんな時間にメールを送るのは迷惑なんじゃないかと考えた。
それに、返事を送るにしても時間が合いてしまったことについて一言何か言っておかないと。
ケータイを片手にメールを送るか送るまいか考え。
送ると決めれば、内容をどうするか考え。
そんな事をしていたら、時間がさらに進んでしまい、また送るかどうするかで迷ってしまう。
そのループを繰り返していくうちに、頭の方に限界がきたらしく俺の脳が徐々に鈍くなり、いつの間にか俺は眠りに落ちてしまった。
朝起きて片手に握り締めたケータイを見た瞬間に、しまった…とうなだれる。
これは、今から返事を返すべきだろう。でも朝の短い時間に打てる自信が俺にはない。
こうなる事なら、昨日の晩にさっさと寝て、今朝早起きすればよかった。
取敢えず、学校へ行く準備を急いでして何とか時間をつくろう。
内容は支度をしながら考えればいい。
なんてことを考えるが、あれよあれよと時間がたち。気づけば俺は、もう教室の自分の机に座っていた。
何故だ。
完全に送るタイミングを逃してしまった。メールなんて慣れないことをするからこうなるんだ。
心配してくれていた事についての、お礼のメールどころか、完全に無視してしまっている。
どうしよう…どうしよう、と考えていると。
西川の元気のいい声が「おぉ、高橋おはよ!今日もきたんだ」と聞こえた。
よりによって、こんなに早く登校してくるなんて…
気まずくて高橋の方を見ることができない。
高橋は、クラスの仲良くなったメンバーに「おーおはよ」などと言いながら、自分の席に着く。
俺の方へは目を向ける様子はない。
俺は高橋の背中を確認し、これは内容どうこうではなく、早く何か言わなければと、ケータイを急いで取り出し、メール画面を開ける。
慣れない手つきで急いで文章を打つため、何回も打ち間違えをする。
あーもう、焦れったい。
と思っていると、一通のメール受信の知らせが届く。
これは、まさか…
そのまさかで、メールは高橋からのもので、開いてみるとそこには
「おはよ」
と書かれていた。
あ……
俺は、急いで打っていた文章を全て消去して
「おはよう」
と高橋に返信した。
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