アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
人形が出会ったのは、ただの我儘な子供だった。
-
「……零次、無理じゃないかも」
「は?」
「零次の父親を、児童虐待の容疑で逮捕すればいいんだよ」
俺の提案に、零次は作り笑いをして首を振る。
「……無理だよ。俺が殺されそうになってる動画を撮んのは。父親は絶対部下を連れてくる。俺達が二人でいるのを見越してな。だから絶対無理だ」
「じゃあどうすんだよ! 父親に殺されるのを黙って受け入れんのかっ!?」
零次の胸ぐらを掴んで、俺は叫んだ。
「海里が自殺するのを許してくれないなら、そうするしかないかもな」
「ふざけんな! 人が死ぬのは散々止めたくせに、そんなこと言ってんじゃねぇよ!」
そうするしかないなんて、言わないでほしかった。
だって、俺の価値観を変えたのは零次だから。零次が虐待を耐えるしかないって想ってた俺に反抗することを教えてくれたから、俺は父親に反抗することができた。それなのに……。
俺の自殺を止めてくれたのは零次なのに、零次自身は自殺を考えたり、父親に殺されたりするのにためらいがないのがすごい嫌だと思った。
散々考えて出した結論でも、それだけは嫌だと思った。
どうしようもない状況だからって何もかも諦めないでほしかった。俺の人生をどうしようもない状況から必死で救ってくれたくせに、そんな風に言わないでほしかった。
「ごめんな、海里。でももうダメだ。ゲームオーバーだ、俺達は」
でも俺のそんな気持ちは、零次に届いていなかった。
「は? なんでだよ」
「お前が俺の場所を父親に教えたからだよ。せっかくクラッキングされてるスマフォを壊してから海に行ったのに、お前が俺の居場所を父さんに教えちまった。……父さん、きっとお前を尾行してる。もうすぐ、ここに着くよ」
「なっ!?」
思わず言葉を失う。
俺は唇を噛んだ。
――何かないのか。俺達二人とも助かる方法。
「海里、もういい。もう二人で生きようとしなくていい。全部俺の自業自得だから」
「嫌だ! 絶対嫌だ! お前がいない世界で生きるのなんて!」
零次の胸ぐらをさらに強い力で握りしめて、俺は叫んだ。
「駄々っ子か」
俺を馬鹿にするみたいに、零次は笑った。
「駄々もこねたくなるよ! だって俺、お前がいなかったら……死んで……っ」
零次の肩に顔を押し付けて、俺は泣き崩れた。
「ごめんな、助けて」
俺の耳元で、今にも消えそうな声で、零次は言う。
「え……?」
「こんな酷い結末になるくらいだったら、出会わない方が良かったかもな俺達」
俺は肩を押して、零次を勢いよく砂浜に押し倒した。
「ふざけんな! そんなこと言うなよ!!」
俺の涙が、零次の頬に落ちる。
零次が笑って、俺の頭を撫でる。痛々しくて、見るのも嫌になる程下手な作り笑い。
……嘘なの丸わかりなんだよ、バカ。
「……ありがとな、そんな風に言ってくれて」
その言葉は、俺がかつて零次に向けて言った言葉だった。
でもその言い方は、俺の言い方とは随分違っていた。
俺はあの言葉を言った時、未来に希望を持っていた。いや、零次のおかげで未来に希望を持てていた。
でも零次の今の言い方は、絶望している人の言い方だ。まるで未来に希望なんて一つもないみたいな。
なんでそんな言い方すんだよ。
そんな言い方されたら、もう本当に二人で生きる方法がないみたいじゃないか……。
そうなのか?
俺達は本当にここで終わりなのか?
俺達が一緒に生きる方法は、本当に一つも残されていないのか?
いや、違う。
そんなことないハズだ。
考えろ。――考えろ、二人で幸せを掴み取る方法を。
誰かに助けを求めるのは?
俺の母さんは仕事中だから、母さんに電話をかけてもしょうがないよな。でもそれなら一体、誰にかければいいんだ?
じいちゃんとばあちゃんは車がないからここには来れないし、今更奈緒と美和に頼っても、この状況ではきっとどうにもならない。
――ダメだ。思いつかない。
零次の父親から逃げる方法が、全く思いつかない。
本当に方法は一つもないのか?
いや、ある。一つだけ。
「零次、服屋に行こう」
「え? ……まさか海里、変装でもする気か?」
「うん。女装して逃げる」
俺がそう言うと、零次は鼻で笑った。
「ハッ、アホか。女装なんてしても顔でバレるに決まってるだろ」
「ああもう! うるさいな! やってみなきゃわかんないだろ! 頼むから、少しは自分のために動いてくれよ!!」
俺の言葉を聞いて、零次はほんの少しだけ目を大きく開けた。
「……俺、監禁をされる前に、お前に会いたかったよ。そうなってたら、自分のために動けたのかもしれないな」
そう言うと、零次は突然、俺の腹を殴った。
「いった」
殴られた衝撃で砂浜にものすごい勢いで身体を打ちつける。
――バシャン!!
俺が身体を起き上がらせた瞬間、零次が海に飛び込んだ。
「れっ、零次!!」
俺は慌てて零次の後を追って、海に潜った。
でも俺は怪我のせいでまともに泳ぐことも出来なくて、すぐに意識を失ってしまった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
47 / 103