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あいつは、バケモン
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エイムの家は、テイルの家でもあった。
リビングのソファーに座らされ、ココアの入ったマグカップを握らされた。
テイル曰く、温かくて甘いものは気持ちも落ち着くでしょ、と。
僕とテイルにソファーを占領されてしまったために、床に座りコーヒーを啜っているエイム。
「なんで帰りたくねぇの?」
ストレートに問うてくるエイムに、むぅっと膨れっ面を返した。
エイムの辞書に、配慮という概念はない。
あまりにも不躾な問い方に、訳すら話そうとしない僕。
そんな僕に、エイムもテイルも困り顔だ。
黙っていても、気不味い空気は薄まらず、ただ居心地の悪い時間が過ぎるだけだった。
沈黙に堪えかねた僕は、ずずっとココアを啜り、口を開く。
「原井、めっちゃ褒めてたよ。テイルのコト。〝葵依は物覚えが良かった〞って……」
有能なテイルを目の前に、妬みが口を衝いた。
「なんで、そんななんでもデキちゃうんだよ……僕がダメなヤツみたいじゃん」
〝みたい〞なのではなく、実際問題、僕は無能だ。
でも、理解はできても、納得できないコトだってある。
なんの努力もせずに妬んだって、なにもならないコトも知ってる。
それでも、胸の底がもぞもぞとした不快感を訴えていた。
拗ねる僕に、テイルは不思議がるような色を浮かべ、言葉を紡ぐ。
「なんでもなんて、こなせないよ? 俺、ナイフも銃も苦手だし。身体の使い方下手だから、ナイフの方が苦手かもな」
まるで難問を突きつけられたかのように、テイルの顔が苦々しくなる。
「だから基本は銃。…てか、銃もナイフも扱えて、体術までマスターしてる原井のあのスキルは、異常だよ……」
あいつはバケモンだよな、とテイルは笑う。
「俺は逆だな。銃は全然ダメ。狙っても撃ち抜けねぇ。だから……」
腰を上げたエイムはカップをテーブル上に置き、僕の真正面に立つ。
手で銃を作り、その射出口を僕のこめかみに押し当てた。
「こうやって押し当てて、引く。てか、やっぱ、こっちの方が殺りやすいな」
ナイフを持っているかのように握った手を首許に当てられ、僕の身体が、ぶるりと震えた。
「怖いって。ナイフも銃も、怖い……」
怖じ気づく僕に、テイルは、ふっと鼻から息を逃がした。
「そんなに嫌なら、戻んなくていいよ。どっか稼げるとこ、見つけてやるよ。男娼ならやれるでしょ?」
テイルの提案に、僕は肯定も否定もせずに押し黙る。
「それも嫌なわけ?」
武器を使うのが怖いのなら、別の働き口を用意してやるというテイルに、それすらも拒否る僕。
我儘を言うなと苛立つテイルに、僕は首を横に振るった。
「違う。……原井に会えなくなんの、やなの」
邪魔になるくらいなら、役立たずな僕は、あの家を出るべきだと、姿を眩ませた。
でも、やっぱり…、僕は原井に会いたい。
原井の傍に、…居たかった。
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