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呆然
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今まで生きてきて、感じたことのない感情をその勢いのままアキラにぶつけた。
アキラの右頬に、俺の握りこぶしがめり込むのをスローモーションで見つめながら、叫ぶ。
「ふざけんなよっ!!!」
殴った上に怒鳴るなんて。人生初のことを一度に二つも。
どこか、冷静にそう感じている自分もいて、殴ったことで少し落ち着いたのかもしれない、そう思った。
殴られた上に、怒鳴られたアキラは、頬を押さえ、呆然と俺を見つめていた。
「・・・俺が、浮気?いい加減にしろよッ、お前がそれ言えんのかよッ。そんなわかりやすい跡つけてきて、女の匂い撒き散らして!・・・今回だけじゃないくせに、俺が気づいてないとでも思ってんのかよっ!」
もう、止められない、むしろ止まる気もない。全てをぶちまけて、後のことは後で考えよう。
「俺がどこにいたか聞く前に、お前はゆうべ、どこで何してたのか、言えるのよ。他の誰かと寝てたって言えるのかよ。俺がゆうべ、一睡もせずに何考えてたか、わかるか?」
怒りが少し落ち着いてくると、徐々に胸が悲しみで苦しくなってくる。こんな形でアキラの浮気を確定したくなかった。せめて、アキラの口から聞かされたかった。
「お前が浮気してるかもしれない。そんなことなくて、ただ酔いつぶれてるだけかもしれないって、信じる気持ちと疑う気持ちで吐きそうだったよ。実際、初めてお前の浮気疑った後、ずっと吐き続けてたし」
涙でぐちゃぐちゃになってきた俺の顔を、呆然と眺めていたアキラだったが
、吐き続けてたと俺が言ったことで、あの時のことに思い至ったのだろう。少し顔を歪めて、泣きそうな表情になった。
「こんなに苦しいならもう考えるの止めようって、家を飛び出して、それで八嶋さんに会っただけなのに、浮気?そんなもん、するわけない、少なくとも俺は、そんなことできない。それでも疑うなら、俺の体を好きなだけ調べればいい」
まだ、言い足りない気もしたが、生まれて初めての経験にこれ以上の気力は沸かなかった。何よりも、涙があふれ、呼吸すらままならなくなっていた。
俺が黙ってしまうと、荒れ果てたリビングには俺のしゃくり上げる声しか響かない。その状態がしばらく続いたあと、アキラが急に動いた。
「ごめん、リョウ。・・・ごめん」
涙で滲む視界に飛び込んできたのは、リョウの土下座だった。
今度は俺が呆然とアキラを眺めてしまう。
友人としての付き合いから考えても、アキラが謝っているところなど、見たことも聞いたこともない。
プライドが邪魔をするのか、自分が悪いと思っていても、言い訳をしたり冗談で誤魔化すことがほとんどだった。もしくは、開き直るか。
今回だって、きっと開き直って、俺のご機嫌を取り始めて、俺を丸め込もうとしてくるだろうと、そう思っていたのに、まさか、土下座するなんて。
「オレが、・・・悪かった。許して、ほしい」
嘘のない、アキラの声。胸に深く響いた。
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