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シュン君 Ⅱ
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しばらくは、あまり忙しくない日が続くはずだ。
今のうちに、やらなければならないことがある。
胸のうちで、新たな決意を固めていると、先生が急に不安そうな、何かを言いたそうな顔で俺のほうを見てくる。
とっくに始業時間になっていたため、先ほどの橋本についての先生の取り調べは、一本の電話によってあっという間に中断されていた。
もしかして、まだ聞きたいのか?
少々うんざりしながら、一応は上司の顔を立てておこうと、「どうかしましたか?」と仕事モードで問いかける。
「あの、ね?リョウ君、今日の夜、予定ある?」
「今夜は特に何もありませんが・・」
先生は、頬を赤らめて、恥ずかしそうに身をよじっている。
40歳にもなって、モジモジするのがこんなに似合うなんて、この人くらいだろう。
「よかったら、今夜、シュン君と会ってくれないかな。前から彼、君に会いたいって言ってて」
まるで、恋する乙女のような先生に、少し呆れて眺める。
正直なところ、先生の彼氏であるシュン君には会ってみたかったが、ついこの間まで先生と体の関係を持っていたことを考えれば、後ろめたさから会いたくないとも思ってしまう。
そんな俺の心情がわかったのか、
「大丈夫、シュン君には全部話してるから」
とにっこりと先生に微笑まれれば、断りにくい。
知られているなら、余計に会いたくなくなったが、これも俺の責任だと自分に言い聞かせた。
シュン君は、かなり多忙らしく、俺たちよりも仕事も遅くなりそうとのことで、シュン君の会社近くの居酒屋で飲むことになった。
しばらく、先生と二人で飲む。
朝の話の続きを聞かれたらどうかわそうか、と身構えていたが、先生は、もうすぐ会える恋人のことで頭が一杯のようだった。
ずっとそわそわと、出入り口をチラチラ見ていた。
俺も、こんな風だったのだろうか。
アキラに恋していた時、自分もこんな恥ずかしい姿を見せていたのかと思うと、いたたまれなくなった。
ガラッと引き戸を大きく開け、かなり大柄な人物が店内に足を踏み入れた瞬間、先生の体がビクンっと、跳ね上がる。
この人、なのか・・・?
かなり、意外なタイプだった。
今までの先生のお相手も何度か見かけたことはあったが、スラッとした長身の人ばかりで、身長は高いがこんな熊みたいな体格の人を相手にしてたとこなんて見たことはない。
顔もどちらかと言えば厳つい顔だ。動物で例えるなら狼みたいな感じだろうか。先生と並ぶと、リアルな赤頭巾ちゃんができそうだ。
しかも、本当に俺より年下なのか?
どう見ても30代半ばだろ?
内心パニックでわたわたしている俺を放って、先生の隣に座ったシュン君は、先生に甘く語りかけていた。
「ごめん、ヒナ。遅くなった。・・・早く会いたかった」
「お仕事お疲れ様、シュン君。僕も早く会いたかったよ・・・」
完全に二人の世界だ。これ、俺いない方がいいんじゃないのか?
それより、ここ普通の居酒屋なんですが、気づいてますか、お二人さん?
隣のテーブルとは軽く仕切られているとはいえ、このままだと二人がキスでも始めるんじゃないかと、内心ヒヤヒヤしながら二人が俺を思い出してくれるのを待っていた。
その後15分ほどして、ようやく俺がいることに気づいた先生にシュン君を紹介されて、シュン君からは、「仕事のこと、自分はよくわからないので、ヒナを支えてやって下さい。お願いします」と頭を下げられ、にこやかに飲み会は過ぎていった。
俺は、先生との過ちを謝るべきなのかとも考えたが、結局は何も言わなかった。そんな俺の自己満足の謝罪なんて、聞かされる方も嫌だろう。
ただ、二人の姿が、本当に幸せそうで、嬉しく微笑ましく思う反面、自分の胸をチクリと突き刺すものも生まれた。
俺とアキラもこうして笑い合えた未来があったのかもしれない。そんな思いに囚われていた。
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