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優しさに触れて 1
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助けて
母さん 父さん ーーー助けて
いやだ いやだ いやだ
舌が手が 身体中を這い回る
イヤダ イヤダ イヤダ
タスケテ タスケテ
ダレカーーー。
ふわり…と感じる温もり。
…大丈夫。
──誰かの声がする。
心地良い、手の温もり。
頭を撫でる、手の温もり。
この手は、あの時の───。
「ん…」
意識が浮上する。
何だろう、背中が暖かい。
モゾ…と動いたところで、耳元から腰にくるようなテノールボイスが響いた。
「起きたのか?」
「──っ?!」
そこで気づく。温もりの原因は、寄りそう人の体からだということに。
テノールボイスは、後ろから聞こえた気がする。
……状況が掴めない。
俺の背後、布擦れの音がして人が起き上がる気配がする。
恐る恐る寝返りを打ち見上げると、そこには俺を見下ろす生徒会長様が。
「気分はどうだ」
え、気分…?……っ、そう、だ。おれ…。
押さえつける手、体を這う舌、そして厭らしく笑う声。
瞬時にあの出来事が甦り、体を固まらせてしまう。
体を売っていても……無理矢理奪われるのは、恐怖でしかなかった。
あれはまぎれもない暴力。
「…悪い、思い出させたか」
すまなそうに、リュウが俺の頭を優しく撫でた。その手から伝わる温もりに、さっきとは違う意味で体が固まる。
───え…。
この手の、温もり…。あの時感じたものだ。
え?まさか、リュウ…?
固まり戸惑う俺に、リュウは怪訝そうな顔をする。
「どうした…?」
「え、あ、いや…」
俺はリュウの視線から逃れるように目を逸らし、辺りをさ迷わせる。
そこでふと気づいた。
──ここどこだ?
何でリュウと寝てた?今何時だ?あれからどうなった?
ひとつの疑問が浮かぶと、次々に他の疑問が浮かび上がる。
疑問が顔に出ていたのか、リュウはもう一度頭を撫でてくると説明をしてくれた。
「ここは俺の部屋だ」
俺が意識を失った後電話で相楽先輩と木宮先輩を呼び出し、床に転がる奴らとへたりこむ九条を任せ、俺を部屋へ連れ帰ったそうだ。
「木崎と矢追に謝っておけよ」
二人に自分の部屋に泊めることを伝えたときにお前の様子を随分と心配そうに聞いてきた、と続けた。
二人は俺に一人になるなと心配してくれていたのに…俺は真剣に取り合わなかった。
「…ハイ」
リュウはまた俺の頭を撫で、ベッドから降りた。
「何か飲むか?」
「あ、はい」
持ってきてやる、とドアの向こうへ消えたリュウ。
俺は改めて、寝かされていた部屋をぐるっと見渡す。
「…すげ。」
俺に宛がわれた部屋も、十分な広さだ。だけどここは俺の部屋の寝室に比べて倍はある。
棚や机、チェストにベッド。あらゆる家具は全て黒で統一され、シックな部屋。
リュウらしいな、なんて思っているとドアの開く音がして、リュウが二つのカップを手に持ち入ってきた。
サイドテーブルを寄せそこに置かれたのは中身は、対称的な色をしていた。
白いカップには、香ばしい香りのブラックコーヒー。
黒いカップには、甘い香りのホットミルク。
「飲め」
ホットミルクを渡され、一口含むと…優しい甘さが広がった。
……これ。
「ハチミツ、入ってますか」
「ん?あぁ」
やっぱり。
──懐かしい。その懐かしい味に、込み上がってくる感情。グッと奥歯を噛み締めて耐える。
「どうした?口に合わなかったか?」
そんな様子の俺を見て、リュウが問い掛けてくる。
「…いえ、懐かしくて…。母が、よく作ってくれました…」
じっとカップの中身を見つめ、もう一度口に含んだ。
お互い言葉を発さず、ただ飲み物が咽を通る音だけが響く。
全て飲み干し、俺は自分の部屋へ戻ると告げた。けど、リュウの言葉に驚く。
「今はまだ4時だ。朝まで寝ていけ」
「…え。」
…4時?
せいぜい、日付が変わるか変わらないかぐらいだと思っていた。
だってリュウからは寝ていた様子は感じられないし。
…もしかして、リュウは寝てない?
「すみません…迷惑かけました」
「いや、お前があんな目に合った責任は俺にもある」
リュウは真っすぐ俺を見た。
「九条は俺の親衛隊だった。野放しにしていたのは、俺だ。
あいつがお前を良く思わないことは分かっていたのに、対応しなかった俺の責任だ。すまない」
そう言ってリュウが頭を下げる。
え、えぇっ?!リュウが、頭、下げてる…
俺は思いもよらない目の前の出来事に目を見開く。
「いや、あの…もういいです。何もなかったから」
「何もなかったわけじゃないだろうが。服は破かれ、ズボンは下げられ…。どこまでされた?」
「え、や、あの…」
そこで俺は今さらながら、身につけているのが自分の服ではないことに気付いた。
「え、服…?」
白い大きめのシャツに、黒いぶかぶかのジャージ着てる。
え、何で今まで気づかなかった?
「あぁ、俺ので悪いがあのままにしておくわけにはいかないからな」
「あの、何でズボンまで…?」
「ジーパンじゃ寝づらいだろう」
いや、そんな気遣い…ってか!俺ズボン上げた記憶ないぞ?
まぁリュウには散々見られてるし…いやいや、違う。そーいう問題じゃねぇ!
戸惑っている俺の肩を掴み、覗き込んでくるリュウ。
「どこまでされたんだ」
あまりにも真剣な顔に、俺はたじろぐ。
「あの…、首筋とか胸とか舐められて…」
「それで?」
「や、あの…下触られた、だけです…」
「それだけか?」
「…はい」
「そうか…最悪の展開までには間に合ったようだな」
安堵の表情を浮かべた。
間に合った、その言葉に俺はリュウが偶然じゃなく、助けに来てくれたんだと知る。
「あの…ありがとうございました」
「いや、間に合って良かった…と言っても、襲われたことには変わりない。
さっきうなされていたからな。辛い思いをさせた」
「え?うなされてた…?」
「あぁ。何回か、嫌だ、と苦しそうにしていた」
「あ…」
そこで、見ていた夢を思い出す。
うなされた原因は、今日のことじゃない。それによって呼び起こされた記憶に──だろう。
──駄目だ、考えるな。
「──かわ、白川?」
呼びかけにハッとして顔を上げると、心配そうな顔が目の前にあった。
「え、あ…大丈夫…です」
そう口では言いながらも、記憶の扉が開こうとしている。
駄目だ、考えるな。耐えろ。
グっと唇を噛みしめると口の中に血の味がした。
「おい、噛むな」
リュウが俺の顎を掴むと、俺の顔をあげさせた。それによって視線が絡む。
きっと今俺は、情けない顔をしているだろう。
「血が出てる。やめとけ」
唇の血を、リュウの指がなぞった。
──今そんなことをしないで欲しい。あの手の持ち主がリュウだとしたら、縋りたくなるじゃないか。
「会長…頭、撫でてもらえませんか…?」
口から出たのは、思ったよりも弱々しい声だった。
「ん?あぁ」
髪をすくように優しく撫でられ、思わず目を閉じる。
…やっぱり、この手だ。
この手の持ち主は、リュウだったんだ…。
だんだんと力だ抜けて行く体。
──記憶に、蓋をする。
「…すいません。もう大丈夫です」
曖昧に笑い俺はリュウから離れようとしたが、リュウがそれを許さなかった。
腕を掴まれ、引きとめられる。
「まだ顔色が悪い。怖いなら側に居てやる。頭だったらずっと撫でてやるから、もう少し寝ろ」
俺はベッドに倒され、ブランケットを掛けられた。
「や、でも会長は…」
「いいから。寝ろ」
そして頭を撫でてくるリュウ。
俺はその心地良さに、いつの間にか眠ってしまっていた──…。
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