アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
生徒会役員とデート権
-
なんら変わらない日常を過ごし、今日は日曜日。
鷺ノ宮先輩とデートをしなければならない日だ。憂鬱。
支度を済ませ1階に行くと既に鷺ノ宮先輩が待っていた。
「すみません、遅くなりました」
「ううん、俺が早く来ただけ。全然遅れてないよ」
行こうか、と歩き出す先輩の後を着いていく。
そういや、今日は一体どこに行くんだ?
そう思っていると、鷺ノ宮先輩が振り向いた。
「今日は俺についてきてくれるだけでいいから」
「あ、ハイ…」
再び歩き出す鷺ノ宮先輩。
連れられるままやって来たのは中央区の中心街。大手デパートが建ち並ぶ、この地区一番の歓楽街だ。
鷺ノ宮先輩が数件あるうちのデパートのひとつに入りエレベーターに乗り込むと、最上階のボタンを押した。
乗り合わせた女子大生が、鷺ノ宮先輩をチラチラと窺っている。
白い細身の綿パンに、黒のTシャツ。
相変わらずジャラジャラとアクセをつけ、制服よりも私服の方がチャラい印象がアップだ。
そんな鷺ノ宮先輩は、エレベーターを降りていく女子大生にニコリと笑いかけていた。
最上階に着き、案内された場所。
「うわ…、」
そこには、金色に輝く草原、朱く染まる太陽、荘厳な滝、煌々と浮かぶ月…大自然を切り取った写真たちが並べられていた。
「好き?こーゆう写真」
「あ、ハイ。好きです」
「そう、良かった」
自由に見てきなよ、そう言われて俺はひとつひとつ食い入るように見ていく。
俺はこういった大自然を写し出した写真が好きだ。
何故かと問われれば明確な答えはないんだが、なんだかエネルギーを感じる。
「…スゴイ」
俺はある一枚の写真の前で立ち止まった。
夜空いっぱいに散りばめられた、幾千の星たち。架かる細い三日月は繊細で、優しい印象。
動物たちの黒いシルエットは今にも動き出しそうだ。
静と動、相反するその二つを、絶妙なバランスで切り取ったその写真。
「それ、気に入った?」
「──っ」
突然背後から声をかけられ肩をビクッとさせてしまった。
「…あ、鷺ノ宮先輩…」
ふりむくとそこに居たのは鷺ノ宮先輩で、存在も忘れて見入ってしまっていた俺。
「すみません…」
「ん?楽しんでもらってるみたいだし。いいよ」
デパート内で開いている個展のためそんなに規模は大きくないというのに、1時間も眺めていたようだ。
「ちょっと早いけど、お昼にしようか」
鷺ノ宮先輩はとくに文句を言うこともなく、気にしていないかのようにニコリと笑いかけてくる。
連れられて来たのは、デパートか出て五分ほど歩いたところにあったオムライス専門店。
何種類ものオムライスが並んでおり、どれにするか迷ってしまう。
──よし、チーズインデミグラスにしよう。
注文を済ませ、俺はチラリと前に座る鷺ノ宮先輩を窺う。
風景写真もオムライスも、俺の好きなものだ。
鷺ノ宮先輩もそうなのか?それともただの偶然?
さっきから誰かとメールのやり取りをしている鷺ノ宮先輩。
モヤモヤとしたものを感じていると、そこに注文したオムライスが運ばれてきた。
俺の前には、オムライス。鷺ノ宮先輩の前には、ドリア。
オムライス専門店と言ってもメインがオムライスなだけで、ドリアもあればスパゲッティだってある。
「先輩は、オムライスじゃないんですね」
「ん?あぁ、あんまり得意じゃないんだよね、オムライスって」
え?じゃあなんでオムライス専門店?
「ホラ、俺のことはいいから。冷めないうちに食べよう」
「…はい」
俺はオムライスをスプーンですくう。すると中からチーズがトロっと出てきた。
「おいし…」
案外アッサリしたソース。チーズの濃さが、いい。
自分好みの味に思わず顔を綻ばせる。
すると、カシャっと目の前からそんな音がした。顔を上げると、鷺ノ宮先輩が携帯を俺に向けている。
「…あの、」
「気にしないで。思い出にしてるだけだから」
「は?」
鷺ノ宮先輩は携帯を操作し、作業が終わるとドリアを食べ出した。
…何なんだ、一体。
疑問に思いながらも、とりあえず食べる手を進める。
特に盛り上がる会話もなく、ただ時折観察するような視線を感じながらも食べ終わり、席を立つ。
昼飯代を出そうとしたら、年上を立てるものだよ、と断られてしまい結局先輩が払った。
そして次に連れてこられたのは、最近オープンしたらしい動物触れ合い広場なるもの。
子犬や子猫、ハムスターにウサギ。他にも小さな動物が沢山。
か、かわいい…。こう、ちっちゃいのってウズウズする。触りたくて。
俺たちは目の前で走り回るかわいい子犬たちを眺めているん…だけど。
浮いてる。激しく浮いている気がする。俺と鷺ノ宮先輩のツーショット。
まぁ、朝から好奇な視線は浴び続けてはいた。方やチャラそうだが顔はイケメン男子、方やモッサリ髪のオタク男子。
そんな二人が一緒に歩くもんだから、え?といった顔で見てくる。
でも今は比じゃないぐらい、一番視線を浴びている気がするぞ。
ここにいるのは大半が女性グループ、もしくはカップル。男同士なんてのは、俺達しかいない。
「先輩…、あの、」
ついてきてとは言われたが、さすがにこの空間は気まずい。
出ませんか?と続けようとしたんだたけど、先に鷺ノ宮先輩が口を開く。
「動物、好き?」
「へ?あ、好き…です」
小動物、大好きです。って、素直に答えてる場合じゃ…
「そっか。あ、このこ可愛い。ほら」
「え、わ…」
目の前にいた黒い毛並みの子犬を抱き上げ、俺に預けてくる。
クゥ…と鳴き、俺を見上げてくる子犬。
可愛い…ずっげ、可愛い。
仔犬と見つめ合いっこをしていると、またしてもカシャっというシャッター音。
「あ、このこも可愛いね」
戸惑っている俺はそっちのけで、次は茶色い毛並みの子犬を預けてきた。
おぉ、ダブルで可愛い…。って和んでる場合じゃ…おわっ。
ぺろっと子犬二匹が頬を舐めてきた。
…もういいや。可愛いし、コイツら。
俺は二匹を下に降ろし、自分も座る。すると、トテトテ…っと数匹のワンコが近寄ってきた。
喉を撫でてやると、鼻を鳴らして擦り寄ってくる。
開き直った俺はそれから子猫の戯れたり、ウサギに餌をやったりなどして過ごした。
そう、¨俺¨は。
鷺ノ宮先輩は動物と遊ぶ俺をただ眺めていただけで、まったく触れ合っていなかった。
うーん…。鷺ノ宮先輩がよく分からない。
自分の好む場所に、ついてきてと言う意味だと思っていた。だけど写真展でもここでも、特に興味はなさそうなのだ。
ご飯だって自分が得意じゃない、と言ったオムライスの専門店だし…。
俺の好みをリサーチした?
…いやいや、鷺ノ宮先輩とは全然接点なかったし、よく一緒にいるのは亮平や純ぐらいだけど別に二人に写真とか動物が好きだと言った覚えはない。
でも、まるで俺の好みを把握してるような行動。偶然にしちゃできすぎてる。かといって俺の好きなものを誰に聞く?誰も知らないはずだ。
一種の気持ち悪さを感じていた俺に、鷺ノ宮先輩が次に案内した場所は。
「……。」
「食べないの?」
「…食べます…」
今目の前にあるのは、チョコ、シフォン、ムースの三種類のケーキに、イチゴバニラアイスが乗っかったデザートプレート。
白を基調としたおしゃれなカフェ、だった。
またしても異質な二人組に目が向けられたが、そこはもう気にするまい。
それよりも気になること。それは、このデザートプレートだ。
俺がトイレに行っている間に、オススメを頼んでおいたから、と言われ運ばれてきたのがこのデザートプレートだった。……ロイヤルミルクティーつきで。
鷺ノ宮先輩はコーヒーを頼んだだけだった。
オススメなんだろ?何故自分も頼まない?
チラリと鷺ノ宮先輩を窺うも、目を細めて笑うだけ。
たしかに俺は、甘いものを少しずつ色んな種類を食べるのが好きだ。
だからデザートプレートは俺のポイントをついている。
そして、ミルクティーも好んで飲む。喫茶店に行ったら、だいたいミルクティーを注文するし、紅茶の飲み方じゃあ一番好き。
鷺ノ宮先輩が見つめる中、俺はチョコレートのケーキを頬張る。
美味い、美味いけど…。
またしても前からシャッター音。
…なんか、薄気味悪くなってきた。
偶然とはいえ、こんなに俺の好みばかりが続くのはやっぱりどう考えたってオカシイ。
何なんだろう、何か変だ。
どうしてこんなに、俺の好みを知っている?誰に聞いた?
何故俺の好きな場所ばかり連れていく?目的はなんだ?
グルグルと渦巻く気持ち悪さ。
──なんだか、頭の奥で警戒音がする。
結局ケーキ代も鷺ノ宮先輩が払い、俺たちは街を少しぶらついた後学園へ帰ってきた。
「今日は楽しかったよ。じゃあね」
「…ありがとうございました」
3階に着き、エレベーターのドアが開くとお礼を言って降りた。
なんだかスッキリしないまま、俺は亮平の部屋のインターホンを押す。
純が出てきて中に入り、ソファに座るなり二人して迫ってきた。
「大丈夫だったか(の)?!」
「お、おぉ。別になんもされてない」
その言葉に、ホッと息をつく二人。とりあえず安心したようだ。
「で?今日何したんだよ。クルーズ?それとも歌劇鑑賞とか?」
「それともフランス料理とか?あ、でもお昼からは行かないかぁ。ホテルビュッフェ?」
「は?」
「「え?」」
二人が挙げだしたセレブの過ごし方にア然としたら、首を傾げる二人。
亮平と純に一日のコースを話した…ら。二人とも目を見開き、驚きの表情。
「変…。」
純がポツリともらせば、亮平はウンウンと頷く。
「あの人が、そんな普通のデート?意外すぎんだけど」
「…なんで?」
「だってあの人のデートっつったら船貸し切ってクルージングとか、チケット入手困難の歌劇鑑賞とか、五つ星ホテルで豪華な食事とか、別荘で優雅にスポーツとか、そんなんだぜ?」
なんだ、そのセレブな過ごし方は。いや、セレブなんだろうけど。
二人の言う、鷺ノ宮先輩の"普通"を聞いて、ますます謎が深まる。
「まぁ、なんもされなくて良かったじゃん。
ホテルにでも連れてこまれてないか純と心配してたんだけどさ」
「うんうん。ホント良かった」
安心する二人を前に余計な心配はかけたくなくて、連れていかれた場所が俺の好みの場所ばかりだったことは言わないでおく。
純と亮平が心配した意味ではとりあえず無事にデートは終わったけれど、鷺ノ宮先輩の行動は俺に謎と警戒を残したのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
42 / 102