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-黒澤side4-
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その日の放課後、新人の俺は業務に追われており、夜の7時半頃までパソコンの作業をしていた。野球部の奴らの掛け声や走る砂の音もグラウンドから消え、随分静かになり始める頃だ。凝ったほうの肩をぐるぐると回しながら、ぬるくなった珈琲を飲み干して、藤岡先生に渡す資料をまとめて手にとった。
「あー…さすがにもう帰ってんかな…。まぁ明日の資料だから明日でいいんだが。」
藤岡先生に資料を渡すついでに校内の教室全部の戸締りチェックをしようと懐中電灯を手に持ち、藤岡先生の部屋へと向かった。
「藤岡先生ー、いらっしゃいますかー?」
ドアをノックすると、ガサガサと大きな物音がした後に驚いたような情けない玉置の声が中から聞こえてきた。
「ちょっと待ってくださいね!今開けますから!」
ドアの前には、“関係者以外立ち入り禁止”と書かれた紙が貼られており、このことからも藤岡先生が誰も部屋に入れさせないことがよくわかる。無表情で口数も少なく、俺とは正反対の人だからあまり関わりがないが、相当不思議な人だ。そんな人ともうまくやれる玉置は人当たりがいいのだろうなと思う。
…それにしても、こんな時間までこいつは絵を描いているのかと少々驚いた。ほかの美術部員なんかはとっくの前に帰ってしまっているものだから、部屋は違えど玉置ももう帰っているだろうと思っていた。どんな絵を書いているのか見てみたいものだ。
「おんちゃん先生!あの…藤岡先生はもう帰られましたよ。」
「あーやっぱりそうだよな。ちょっと渡したい物があったんだが仕方ねぇ。」
そう言って部屋から出てきた玉置は、絵を書くときの服なのか、作業着のようなつなぎを着ており、ふんわりと絵の具の香りがした。
「藤岡先生は絵のお仕事もありますから放課後は殆どいらっしゃらないので…捕まえるのは難しいと思います。」
「えっ、そうなのか?先生がいねぇのに藤岡先生の部屋入れるとかお前すごいな…なんか守秘義務でもあんのか?」
「ははっ秘密なんてないですよっ。でも、入るなって言われるととても気になりますよね…いろんな人に聞かれます。」
そう言うと、いつものように少し困ったような顔で笑った。…白鳥先生はやましいだのなんだのと裏をかいていたが、そもそも先生が外出していて居ないことが多いのなら、俺たちが心配する必要はなさそうだ。
「お前、静かなやつだと思ってたけど、結構喋るんだな。」
「へ、変ですか…?」
「いや、なんかお前の笑顔って元気になる。そうやって笑ってた方が絶対いいぞ。」
そう言うと、急に林檎のように顔が真っ赤になった玉置がなんだか新鮮で、もう少しいじめてやりたくなった。
「あ、そういえばさっきからほっぺに絵の具ついてるぞ。」
「えっ…嘘!?」
「うっそー。ぷっ…ごめんごめん、なんかお前いじめたくなるわ。可愛い。」
頬を親指で拭うふりをして包み込むように触ると、白いその肌はやっぱり予想通りスベスベしていて、同じ男とは思えない。…これが若さってやつだろうか、なんてオヤジみたいな事を考えてしまった。
騙されたことで更に恥ずかしそうに顔を赤らめる玉置を見ていると、なんだかこちらまで恥ずかしくなってきた。この様子じゃ、彼女とかもいねぇんだろうなぁ…。初々しさが痛く胸に刺さる。
「…もう外は暗いし、気ぃつけて帰れよー。」
「はい!おんちゃん先生も…。」
そう言うと玉置はからかわれた事に怒りもせず、優しく微笑みかけて俺に手を振った。…こういう優しいやつほど無理をしていることが多いから、無闇にからかうのはよそうと心の中で反省しながら、最後に見た真っ赤な顔を思い出してにやけそうになる口元をそっと手で押さえた。
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