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離別の瞬間
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”勝谷くん?”
と言う女の子の声が聞こえたような気がした。
(もしかして…聞かれた?)
それはそれでいいと思ったが、胸の奥がなぜか傷んだ。
「雨宮さんは何で恋人を作らないんですか?」
幸希は金田の差し出した煙草を一本取った。
「何でって…」
海風から守るように煙草に火をつけた。
紫煙が身体を満たしていく。
「木下さんが言っていました。雨宮さんは昔、凄い酷い捨てられかたをしてから恋愛に慎重になってるんだって。」
ぷっはっーと煙をはいた。
「あいつめ…」
「失恋の傷が治ってないんですか?」
金田は幸希を伺いながら、煙草には火をつけずに手で弄んいた。
幸希はもう一度、煙をを深く吸い込んだ。
「…それともまだその人を想っているんですか?」
はたっと煙草の灰が足元に落ちた。
陽が傾き始め、駐車場に向かう人が増えてきた。
幸希は車で休むと楷にいうと
「じゃあ、うちの車で休むといいですよ!四駆で、後ろのシート倒したら結構広いですから!いつでも使えるように鍵はかけて無いですし!」
(楷くんの危機管理能力は低そうだな…)
日差しを浴びすぎたせいか、久々煙草を吸ったせいか、頭がクラクラしていた。
(あの車か…)
真っ赤な四駆が隅の方に停められていた。
一歩、一歩近付いた時、誰かの頭が見えた気がした。
(誰かいるのかな…?)
幸希はそっと近付いて、恐る恐る窓から中を見た。
「…!!」
中では女性の上半身が露わになり、ブルーのTシャツを着た男性と絡み合っていた。
幸希はすぐに顔をそらし、窓から身を隠した。
(なっ…)
クラっとして、足が絡んだ。
「雨宮さーん!」
幸希が口を手で押さえていると楷が遠くの方から手を振って歩いてきていた。
「か、楷くん…」
(まずい!)
幸希はハッとし、情事中かもしれない車の窓を叩いた。
車の中の動きはピタリと止まった。
幸希は楷に手を振りながら、早く2人が服を着ることを願った。
(早くしろよ!)
ガチャ!!
幸希が押さえていた車のドアが開いた。
「おっと…」
(もう着替えたのか…?)
恐る恐るドアが開けられた。
振り向くと唇に赤い口紅をつけ、髪も乱れた勝谷がドアを開けていた。
「あっ…」
幸希は驚きの顔しかできなかった。それは勝谷も同じなようで、その大きな瞳は驚きで見開いていた。
車内を見るとまだ女の子は水着をつけている途中だった。
心臓が飛び出しそうなくらい苦しかったが、グッと足に力をいれ、放心する勝谷に耳打ちした。
「もうすぐみんなが来る。」
「お、俺…その…」
勝谷は迷子のようにすがるような眼をしていた。
(ふらついている場合じゃない!今は守らなきゃ!)
幸希は両手で勝谷の顔を包み、口紅のついた口元を指で拭った。
「流石に人の車でセックスはまずいよ。しかも、こんな人目が付くで…やるなら場所を考えなきゃ。君は人気者だろう?女の子たちが発狂しちゃうよ。」
「…」
大人しくさせるがままになっている勝谷に幸希は笑顔で覗き込んだ。
「よし!君は?大丈夫?」
車の奥の女の子に声をかけると女の子は焦ったように何度も頷いた。
幸希が勝谷の顔から手を離そうとするとその手を勝谷が両手で掴んだ。
何か言いたげな瞳に幸希は何とか微笑んだ。
「彼女は大切にしろよ。」
そういうと勝谷は言葉を無くしたかのように手を離した。
これで…君の人生は通常レールに乗ったんだよ…といってあげたかった。
でも心はどこから軋むような痛みが走った。
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