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「約束をした君の誕生日、ショッピングモールで君へのプレゼントを探していたら、偶然、元妻に会った。根掘り葉掘り聞かれて困ったよ。好きな人がいる事は伝えていたからな。」
彼は照れ臭い様で、口を押さえた。
あの時見たのは、奥さんだった。でも、自分が思っていた状況とは全く違った。
離婚を切り出した時に、正直に好きな人がいると理由を話すと、奥さんはとても驚いたらしいけれど、彼やその相手である僕を責める事はなく、離婚にあっさりと応じたらしい。実は海外勤務の話があり、これで心置きなく行く事が出来るとむしろ喜んでいて、仕事への姿勢は尊敬していたし、別れてからの方が友人の様ないい関係になれたと、彼は言った。
「プレゼントを用意して、ケーキを二人分買った。甘い物は苦手だけど、君と二人で食べるならきっと美味しいだろうと思った。」
彼が僕を思って買ってくれたケーキを二人で食べたかった。僕が選んだケーキを、彼にも食べて欲しかった。
「向かう途中、店で別れたはずの元妻から電話があった。出れば病院からで、事故に巻き込まれて重傷だと言われて、直ぐに来て欲しいという連絡だった。命に係わる程ではなかったけれど、慌てて病院へ向かった。」
別れたとはいえ、夫婦だった。その相手が事故にあって、大怪我をしたのだからとても心配しただろう。
「向こうの両親は遠距離に住んでいるし、確かに冷めた夫婦関係だったが、目が覚めるまで傍に居てやりたかった。朝になって、君の事を思い出した。その時まで君の事も、買ったケーキもやプレゼントの事も忘れていた。君の誕生日も、終わっていた。」
最低だ、彼が自嘲的な笑を浮かべる。彼を責める事なんてしない。彼は約束を果たそうとしてくれていた、それが分かっただけでもう十分だ。
彼に対して怒りや、憎しみなんて元々ない。大切な思い出をくれた彼に、感謝している。
「向こうの両親が着いて、説明や手続きを終わらせて、すぐに君の家に向かった。君が許してくれなくても、何度でも謝って、君に好きだと言いたかった。でも、何度インターフォンを鳴らしても、ドアを叩いても君は出てこなかった。」
その時、きっと僕はもうその部屋から、街からいなくなっていた。
「それから、毎日君の部屋に行った。何度行っても、君は居なかった。何日か経った時、君の部屋の隣人に偶然会って、君が引っ越した事を聞いた。」
彼の目は光を失った様になり、僕を力強く抱き締める。震える彼が、悲しくて、愛しくて、僕も彼を抱き締める。
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