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生徒会室爆破事件 格付
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今時、定期テストの順位が貼り出される高校なんて、きっと私立くらいしかないんじゃないだろうか。
ほら、公立の高校は、格差が生まれるとか、差別が発生するとか、イジメに繋がるとか、色々な理由をつけて、そういうことはしない。でも、実際はどうなんだろうか。
やっぱり、順位を発表したほうが、成績の全体的な底上げへと繋がるのだろうか。
俺、夢野衛は、自覚はあるが、成績がかなり悪い。
いや、テスト2週間前に担任の浜口が、いつものダルそうな感じではなく、マジな顔で俺に警告してきた。
だから、俺の周りで1番テストで頼りになる、志真に勉強を見てもらおうと思っていたのに。
「なんで、こいつと勉強なんてしてるんだろう……」
目の前の赤毛を見ながら、思わず呟いてしまったセリフ。
目の前の赤毛、つまり山河陸は、そんな俺の呟きが聞こえないほど、耳が悪い訳ではないらしかった。
「もういい加減諦めろよ。俺だって、好きで教えてるんじゃない。」
「だったら、お前になんのメリットがあるんだ。」
数学のプリントをにらめ付けながら、俺は山河に問いかけた。
俺は、山河が嫌いだ。
校則は守ってないし、風紀委員のことは馬鹿にするし、何より何故か志真と仲が良い。
別に、こいつが悠里みたいな奴なら、なんぼ志真と仲良くても良かったんだ。
だけど、こいつは危険だ。
志真に危険が及ぶかもしれない、と思うとどうしてもこいつのことを好きになれなかった。
別に志真を信用してないわけじゃない。
でも、志真がどのタイミングで、どういう経緯でこいつと仲良くしてるのかが、イマイチわからなかった。
接点と言えば、悠里くらいしかいないけど、本当にそれだけだろうか。
「志真くんに貸しを作るため、かな……そんな睨まないでよ。本当のこと言っただけじゃん。」
「お前、あんまり志真に関わるなよ。」
「なんで?俺が、志真くんに関わるの、なんで衛に禁止されなきゃいけないわけ?」
「呼び捨てすんな。」
「ひどいな。俺のことも、名前で呼んでいいんだよ?ま・も・る!」
こいつに真剣な話をしようとしても無駄だ。
全部、こんな感じに上手い具合にはぐらかされる。真剣に話してくれることの方が少ない。大体、笑って誤魔化すのだ。
赤毛でカラコンもして、パーカーを着るという校則違反のこいつは、俺からしてみれば、苦手な相手なのだが、それはこいつが校則違反をしているから、という理由だけではない気がした。
しばらく、俺は黙って数学のプリントをやった。
山河は、勉強してると思いきや、本を読んでいる。こいつ、本当に頭が良いのだろうか。
「ねえ。」
俺がいい感じに集中してきた時に、山河が本から目を離さずに話しかけてきた。
「衛と志真くんってどういう関係なの?」
「……は?」
何を藪から棒に言ってるんだ、こいつは。
志真と俺の関係なんて……
「親友だ。」
「やっぱりねー。志真くんも同じ答えだった。でもさ、違うでしょ?少なからず、衛は志真くんのこと、違う風に見てない?」
ここで、山河は俺の表情を見るかのように、本から顔を上げた。
茶色の目に俺が映って、俺は目を逸らしてしまう。
俺が、志真を違うように見ている?
それはつまりどういうことなのだろうか。
俺は、志真のことを親友だと思っている。
向こうもそう思ってくれてるなら、嬉しい限りなのだが、こいつはそれだけじゃないというのだろうか。
実は、宝探しの時の例の事件があったからか、俺は自分が何故風紀委員になったのか、いつから志真を知っていたか、志真にまだ話していないのだ。
というか、志真はそのことを忘れているじゃないかと思う。
志真は、宝探しのことをなるべく早く忘れたいのかもしれない。そう思うと、宝探しの前に、全部話す、って言ったことだけど、と話し始めることが出来ない。
「違う?違う風に見てるってどういうことだよ。志真は志真だ。親友の志真だ。それ以下でも……それ以上でもない。」
そうだ。
俺と志真が初めて会った時は、俺は風紀委員なんて入る気なんてなかった。
というか、高等部の生活がどんなものかさえ知らなかった。
志真は、きっと俺が全て知っていて自分に近づいた、と思っているかもしれない。
俺が志真と仲良くしようと思ったのは、直感に近いものであった。
志真の部屋に初めて入った時、『MCRK』のCDを見つけた。
テンションが上がって話しかけたけど、本当は隣に来るっていう編入生が、少しだけ気になっただけ。
少し見たら帰るつもりだった。
仲良くするつもりも、色々教えてやるつもりも、志真に会う前の俺にはなかった。
山河は、そんな風に考えている俺を、じっと見ていた。
「ふーん。まあ、いいや。俺からしてみれば、衛は志真くんのこと相当好きだよね。」
「何言ってんの?お前。俺が志真を好きなのは、当たり前だろ。」
親友だ。
志真はあまり笑わないけど、実際はすごくいい奴だ。
最初の頃なんて、あんまり話しかけてもくれなかったけど、今じゃ軽口を叩き合うくらいには距離は縮まった。
山河は俺の答えに一瞬目を見開いたが、やがて目を細めて笑った。
俺は、こいつが本当に嫌いだ。
「ふーん。まあ、いいや。俺は、雅樹から逃げられれば何でもいい。志真くんのことも興味あるけど、今は衛で勘弁しとくよ。」
「意味わかんねーよ、お前。不良のくせに京谷さん呼び捨てにするな。」
この学校で京谷さんを、下の名前で呼び捨てにしてるのなんて、こいつくらいだ。
京谷さんも、なんでこいつにそんなこと許してるのかは、謎なのだが。
でも、こいつのことは嫌いだけど、俺が最初に京谷さんからこいつのことを口で聞かされた時のイメージと、実際に会ってみた時のこいつのイメージは全く違うものだった。
ただ頭の悪い喧嘩が強い不良とばかり思っていたが、こいつは頭が良くて喧嘩が強い見た目は不良なのに、喋り方とか全然不良じゃない。それに、髪の毛とかちゃんとすれば、きっと極道の人間だっていうのもバレないレベルだ。
「いいんだよ。雅樹がそう呼んでいい、って言ったんだから。それより、手止まってるし、ここ、間違えてる。」
山河は、俺の数学のプリントの間違えを指摘しながら、正しい答えの解き方を教えてくれる。
本当に、こいつは危険人物なのだろうか。
俺は、そんなことを考えながら、山河を見つめていた。
「ちょっと、また止まってるし。てか、何考えてんの?」
「いや、別に。」
「衛が考えてたこと言ってやろうか。」
山河がニヤリと笑う。
こいつのこういうところが好きじゃない。
「衛は、俺が本当に危険人物なのか、って疑っただろ。」
素直に驚いた。
こいつは、俺の心の中がわかるのだろうか。
確かに、俺は山河が本当に学園に危険を及ぼす可能性がある危険人物には、見えない。
確かに入学直後に暴力事件を起こして、相手を病院送りにしたが、あれは全て相手が悪かっただけではないか。
そんなに、何も考えずに、暴力を振るうような馬鹿には見えないのだが。
「衛は、俺と志真くんなら、どっちが危険だと思う?」
そんなの、決まってる。
「お前だ。志真は危険人物なんかじゃないと思ってる。」
俺の即答に、山河はケラケラと笑った。
そして、ひとしきり笑った後、急に真面目な顔になった。
「じゃあ、衛の考えていることは、間違えてる。志真くんは確かに学園に危険を及ぼすようなことは、しないと思うよ。でも、可能性は確実に俺より上だ。」
「なんで、そう言い切る。」
「俺は、風紀も生徒会も掴めていない、唐澤志真の秘密を知ってるから。」
山河は、笑わなかった。
それが、事実であるという証拠。
こいつは、志真のなんの秘密を知っているというのだろうか。
そして、何故知っているのだろうか。
何も言えないでいた俺に、山河は続ける。
「でも、衛には言わない。というか、志真くんが言って欲しくなさそうだから、言わない。」
「お前、それで志真を脅してないだろうな。」
「脅すも何も、志真くんは俺が秘密を知ってることも知らないよ。これは、俺の秘密。志真くんの秘密を知ってるっていう、俺の秘密なんだよ。」
山河が何故それを隠しているのかは、わからない。ただの気まぐれなのかもしれない。
でも、もし考えてのことであれば、俺にはよくわからない領域の話なのだろう。
このことを、京谷さんは薄々勘付いているのではないだろうか。
あの人は、かなり察しの良い人だ。
山河が何かを隠していることは、気づいているはず。
とにかく、俺にはわからない話。
もし、今回のテストが良くて、少し頭を良くしようと頑張れば、俺にもわかるのだろうか。
「安心しなよ。賢さで言ったら、志真くんよりは、確実に衛の方が上だから。」
そう言って、また山河は、俺の数学のプリントの間違えを指摘した。
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