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しのぶさん
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「えぇー。志真くん。あたしのこと忘れちゃったの?」
なんか、ちょっとだけにわかに信じ難いけど、この女の人、声がハスキーで低めで、なんとなく……オネエ感が。
いや、失礼だな。そういう女の人は割といる。
「もー仕方ないな。もう一度自己紹介してあげる。」
「その前に、上からどいてやれ。それ、志真くんじゃなかったら、今頃死んでるよ?」
そう、実は重い。
腹に背が高い女の人が乗ってる。さっきから、内臓が潰れそうだ。力を抜いたら終わる。
「あら。ごめんね。」
そう言って、女の人は俺から退いた。
何とか立ち上がって見て、ショックを受けた。
目の前に立たれるとわかる。女の人が自分より背が高いということが。
見上げていると、女の人がニッコリと笑った。
「久しぶりなんだけど、志真くんは覚えてないでしょ?あたしの名前は、しのぶ。まあ、しのぶさん、とでも呼んで。」
しのぶ……しのぶ……やっぱり、記憶にないな。
でも、この声に少しだけ懐かしさを感じるんだけど、思い出せない。
「ちなみに、今日の約束の相手は、こいつだからね。」
山河がそんな混乱している俺に言ってきた。
しのぶさんと俺は、やっぱり過去に会ったことがあるのだろうか。
あの頃に会った人物を覚えてないなんて、俺もすっかりボケたな……
「もー。志真くんてば、そんなだと、いつか本当に大事な人を、志真くんの手で傷付けることになる、よ?」
しのぶさんの言葉に、俺は言葉を失った。
『いつか本当に大事な人を、あんたの手で傷付けることになる。それでもいいのか?』
同じことを言われたことがある。
しかも、“あの時”だ。
でも、しのぶさんのような人はいなかったんだけど……
こんな女の人と会ったら、忘れるはずがない。
でも、俺の記憶にしのぶさんのような女の人は、記憶にないし……
俺が焦っていると、しのぶさんがため息をついて、俺の耳元まで口を近付けた。
「木暮くん。」
俺は、とっさにしのぶさんと距離を取った。
なんで、この人はその名前を知っているんだ。
そして、一歩離れて、顔をよく見たことでわかったことがある。
しのぶさんは、左目の下にホクロがある。
俺は、過去に、左目の下にホクロがある“男”に会ったことがある。しかも、その人とは、“あの時”に出会った。
「……あんた、もしかして、あの時の。」
「やっと気付いた。改めまして、久しぶり。志真くん。あの時以来ね。」
そこにいたのは、さっきまで綺麗な女の人だと思っていたしのぶさんではない。
意識し始めてわかった。
この目の前の人は……
「やだやだ。2人の会話聞いてて歯がゆい。志真くん。こいつ、男だからね。」
痺れを切らした山河が口を挟んでくるけど、俺はそんなことはとうにわかっている。
「……あの時の闇医者か。」
「闇、は余計よ。あたしは、医者。あの時、助けてあげたでしょ?」
ニッコリと笑う目の前の人は、間違いなくあの時にいた男だ。
「それと、次に闇医者って呼んだら」
眉毛も唇も変わらずに、満面の笑みを浮かべる。綺麗と言うよりは、今の俺には怖いだけだ。
「生きたまま、解剖するぞ。」
一瞬真顔になり、ビックリするくらい低い声で俺に言った……しのぶさんは、また相も変わらない笑顔を見せた。
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