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それぞれの夜 志真
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「なあ、暑くないか?」
「いえ、大丈夫です。会長こそ、暑くないですか?」
「いや、特に暑くないが。お前、体温高いな。」
「子供みたいですよね。」
なんで、今、会長と2人でこんな風に、同じベッドで狭苦しく寝ているのか。
それは、決して、いい感じになったから、とか、会長が乗り込んできたから、とか、俺が会長のベッドに潜り込んだから、とか、そういうわけではない。
これは、言うからば不可抗力。
会長の珍しいミスから起こった、幸せな状態だ。まあ、俺にとっては、だが。
話は、ちょっと前に戻る。
夕飯も食べ終わって、お互いにシャワーを浴びて、寝る前にお茶なんか飲んで、世間話でもしようか、ということになった。
いや、言い出したのは俺ではない。かと言って、会長が、世間話でもするか、と言ったわけでもない。
何となく、お互いのベッドに座って、そういう流れになったのだ。
俺はというと、さっき海に入る前のことがあったので、会長と2人きりというのは緊張していた。
誰か……ミケ先輩とかが遊びに来てくれたりしたら、きっと気持ちが楽になるんだろうけど、全くもってその気配がない。
奥の部屋であるからだろうか。
前を誰かが通る気配すらしないのだ。
というか、隣の部屋の翼先輩たちは、もう寝てしまったのだろうか。
ここの壁、凄く厚く出来てるのか、隣に人がいるのかさえわからないほど、振動も音も聞こえなかった。
会長と世間話というのは、どういう話をすれば良いのだろうか。
そんなことを考えながら、俺は会長と話せる共通の話題を考えていた。
「お前のその髪は地毛なのか?」
「へ?」
突然の質問に、つい間抜けな声を出してしまった。
「いや、特に理由はないが、お前の髪の色に違和感がある。」
「ええと……地毛ではありません。」
「ふーん。じゃあ、本来は何色なの?」
そう言って、会長は俺の髪をジッと見た。
「いえ、それは……言えません。」
「なんで?」
「言いたくないからです。」
この話の流れは、非常にまずい。
何とかして、会長の追求から逃れないと……
「……会長は、俺の目のことは知ってますね。」
「ああ。左目の縁だけ灰色なんだろ?」
よく覚えてらっしゃる。
「はい。つまり……その時は話しませんでしたけど、俺の親は純日本人ではありません。」
「ほー。お前もか。」
「でも、そのことに関しては、あまり話したくないんです。確かに、俺のこの黒髪は自前ではありません。でも、本当の色を今すぐに話せ、というものにも答えられません。」
俺は、恐る恐る会長の顔を見た。
この言い分に嘘はない。
それをわかってもらうために、相手の目を見て言う。
会長は、突然立ち上がったと思ったら、備え付けの冷蔵庫の前に行って、冷蔵庫を開けた。
もちろん、俺の手にも、会長の手にも、お茶のコップがある。
何を出すつもりなのだろうか。
会長は、冷蔵庫から、缶のカラフルなものを二つ取り出した。
「まあ、なんだ。俺だけ質問するのもなんだし、今日は質問ナイト、と行こう。雰囲気付ってことで、炭酸飲料でもどうかってな。お前、炭酸飲料は?」
「……飲めますけど。」
会長は、俺に缶を渡してきた。
俺は、それを受け取って、両手で持つ。
会長、さっき運転手さんに何か頼んでたけど、それはこれなんだろうか。
2個あるってことは、最初から俺に渡す予定だったのだろうか……
と、その時、パシュッという音がした。
「うわっ!ヤバい。志真!タオルっ」
何事かと横を見ると、会長が狼狽えていた。
「あっ!会長!とりあえず、ベッドからそれ遠ざけてください!」
会長の手には、泡が吹き出し、液体が溢れ出ている缶があった。
俺は、急いでバスルームからタオルを持って行って、会長の手ごと缶を包んだ。
……ということで、その時、会長がベッドの上にいたため、会長のベッドは炭酸飲料でベトベト。
そして、そんな会長に、俺は何を思ったのか、こんな提案をした。
『会長がよろしければ、俺のベッドで寝ますか?』
会長は、一度は断ったものの、俺がもう一度言うと、アッサリと受け入れた。
そして、折角だし、もう寝てしまおう、となり、今の状況にいたる。
だけど、当然、そう簡単に眠れない訳で。
「……眠れないな。」
「……ですね。」
クルッと会長が身体を反転させて、俺の方に顔を向けた。
会長って睫毛長い……
「そういや、お前って怖いものとかあるのか?」
会長は、質問タイムに入ったようだ。
よく考えたら、俺が一方的に質問されているような……
「怖いものですか?……それは、会長がよくご存知かと。」
何度もやられてる。
俺は、今、上に乗られるのが怖くて仕方がない。
この話したくないな……会長が悲しそうな顔するから。
「会長の怖いものって何ですか?」
「……無いな。」
「今の間が気になります。」
「……強いて言えば、弟かな。」
えっ。
「会長!弟いるんですか?!」
「なんだよ、そんなに驚いて。いるよ。今、中学生だ。」
いやいや、その弟さんが怖いって……
「弟さん怖いんですか?」
「ああ、弟の愛が怖い。」
ああ、なるほど。
確かに、これだけカッコいいお兄さんなら、好きになるよな。
というか、初耳過ぎてビックリ。
「仲良いんですね。」
「恐ろしいぞ。俺のこと何か勘違いしているようだ。」
会長は何だか疲れて遠い目をしていた。
相当好かれているらしい。
そう考えると、面白くなってきた。
「ふふふっ。」
「っ!……」
自然と笑みが溢れていた。
俺は忘れていたけど、これが会長に見せた初めての本当の笑顔だった。
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