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166.✩頼る
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✩✩✩✩
「あ。アサくん!」
マンションのエントランス前で両手に買い物袋を提げた桜さんとばったり会った。どうやら夕飯の買い物に行っていたらしい。
結構買い込んでるみたいで「片方持ちますよ」と言うとスーパーの袋とは違う方を渡された。スーパーの近くにあるドラッグストアの袋だった。
「何買ってきたんですか?」
「風邪薬とか湿布とか、そういうの全然揃ってなかったから買ってきたの。楓、体調悪いみたいだったから」
「え!?」
「朝はあの通り元気そうだったけど、さっき出てくる時に声かけたらね、心なしかぐったりしてたの。だから一応、ね」
珍しいよね、なんて付け足して桜さんは笑った。
楓さん……大丈夫かな……。ここ最近俺が寝てからベッドに入ってるみたいだし、朝方まで仕事してるなんてことがよくあった。
もしかしたら、一緒にお風呂に入った日以来そういうことをされていないから、あの時から体調悪かったのかも……。今朝のことだって楓さんに嫌な思いをさせてしまったし、それでさらに体調が悪化したんじゃ……。
俺のせいで楓さんの体調が悪いのだとしたら……。楓さんなはいつも迷惑をかけてばかりで泣きたくなる。……どうして俺は楓さんのちょっとした変化にも気付けないんだろう……。楓さんは俺のことをいつもすぐに気付いてくれるのに。
「俺、楓さんに負担かけてばっかりだ……」
「……ふふ、アサくん。アサくんのしてることは負担になんかなっていないと思うよ。負担をかけているんじゃなくて、頼っているだけだよ。人を頼ることはいいことなの」
「でも俺……」
「楓ね、前に『旭に頼られるのは嬉しい』って言ってた。ほら、楓ってあんな感じだけど末っ子でしょ。普段は嫌でも兄弟に頼らなくちゃいけなくて、でもそんな自分をアサくんが頼ってくれるのが嬉しかったんだよ。だから、もっと頼っちゃいなよ」
「っ、桜さん……ありがとうございます……」
わしゃわしゃと髪を撫でてきた桜さんの励ましの言葉が胸にじーんときて心が温かくなった。そう言ってもらえると少し心が軽くなる。
「ふふふ、元気が出たみたいで良かった!あっ、そうそう!体の温まるもの作らないと、と思って鍋の材料買ってきたの!」
「鍋ですか、ふふ、いいですね」
「シメは何にしようかしら~。雑炊とうどん、どっちがいいかな〜」
「どっちも美味しそうですね」
……甘える行為も、頼るということに含まれるんだろうか、なんて思って、桜さんとそんな会話をしながら部屋に戻った。
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