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サヨナラ_6
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不意に目が覚めた。
暖かい夢をみていたのだと思う。
気付くとまたベットに寝かされていて、隣には優也さんが寝息をたてている。
数時間前と同じ光景。
嬉しいような、くすぐったいような…
幸せな気分。
振り切るように今度こそ、そっとベットを抜け出す。
暖かい夢をありがとうございました。
優也さん
あなたの事、僕は一生の思い出にします。
迷惑かけてすみませんでした。
さようなら。
ぺこりと頭を下げて寝室から出る。
リビングのソファーにクリーニングにだしてくれたと思われるビニールがかけられたスーツが2着とシャツが置かれていた。
一緒に置かれていた僕の鞄に入っているエコバックにそれらを詰め込んで、大きく息を吐く。
キッチンの入り口に置き去りにされていた新聞から裏の白い広告を取り出して
”お世話になりました”
と書いて優也さんの部屋から出た。
カシャン
と背後でオートロックが閉まった音を聞いて、僕はエレベーターに向かう。
夜風が体にあたってひどく冷たく感じて身を竦ませる。
でも、もう行かなくては。
安住の地なんてどこにもない逃亡者なんだから。
数軒先の自分のマンションの前に立つと随分帰ってきていない気がした。
ふらふらする足腰をしゃんとさせながら、階段を登る。
僕の部屋は2階だから、普段から階段を使用しているのだ。
こんな時くらいエレベーターをつかえばいいのに、貧乏性に笑いがこみあげる。
休み休み階段を登ると部屋の前に人影があった。
それが誰だかわかっていたのに、僕の喉は、ひきつって乾いた音をたてた。
その人影はゆっくりこちらを振り向いてニコリとして、ちっとも笑っていない瞳をむける。
「久しぶり。ずいぶん遅い帰宅だね。僕はもう何時間も待っていたんだよ。愁」
両手から力が抜けて荷物を落としてしまう。
がたがたと震えだす体。
二度と出会いたくない相手。
まさかこんなに早く、部屋まで割り出されていたなんて思わなかった。
僕の足元の荷物を手早く拾い、鞄から鍵を取り出すと僕の部屋の鍵を開けた。
「どうしたの。僕に会えて声も出ないほど嬉しい?さあ早く入りなよ」
開け放された部屋を指差す。
歩かないといけないのに足が前に進まない。
回れ右をして走って逃げたいのに体が動かない。
チッ、と舌打ちをしながら僕の手を強く引っ張り部屋の前まで辿り着くと、玄関で背中から強く突き飛ばされた。
背後でバタンと乱暴に扉が閉められる音が聞こえた。
その瞬間、目の前が真っ暗になった。
手足から感覚が失われていく。
ひんやりしたフローリングの床が氷のように冷たく感じる。
絶望、の2文字が頭の中でチカチカと光っては消えて不安を煽る。
髪の毛を掴まれて床に座らされ、その顔を正面から見た途端に
心がすうっと冷えていく。
アノヒトの瞳は昔と変わらず、どろりとした憎しみが渦をまいているようだった。
自分の部屋なのに逃げられないような体勢にさせられて
何もかもが、もう遅かった事にようやく気付いたんだ。
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