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父と母の祈り
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「玖美!」
バタバタと足音をたてながら、連絡を受けた父の勇次郎は、使用中にされた手術室の前に立ち尽くす玖美の名前を呼んだ。
「…ゆうちゃん…英が…っ。」
玖美の声は不安で掠れ、肩が小刻みに震えていた。
勇次郎は、そんな玖美を落ち着かせようと息を整え、玖美の肩を抱き寄せた。
「…大丈夫だ。大丈夫…。」
泣きじゃくる玖美を宥めながら、手術室の扉に目を向ける。
…大丈夫。
…あいつの事だ、きっと大丈夫…。
「…お願い……っお願いします……。」
どうか……。
5時間後。
手術中のランプが消え、手術室の扉が開いた。
「! せ、先生!」
術着を着た医者が中から出てきた瞬間、玖美と勇次郎は瞬時に立ち上がった。
「あの、む、息子は…。」
玖美の震えた声に対し、医者は冷静な態度で答えた。
「一命は取り留めました。後は、意識が戻るのを待ちましょう。」
「…ぁ……た、助かったん…ですか…?」
「大変危険な状態でしたが、何とか。」
「…そうですか。」
玖美はそれを聞き、安心したのか胸を撫で下ろした。
勇次郎もまた、思わず安堵の溜息を吐く。
「…ですが。」
そんな二人を見た医者は、心底何か言い辛そうな表情を浮かべた。
玖美と勇次郎の顔色がその瞬間、一瞬にして変わった。
「今回の事故が原因で…残念ながら、息子さんの脳や身体の方に、何かしらの後遺症が残る可能性があります。」
「…後遺症?」
その一言が、またしても二人を不安にさせた。
「息子さんは、大変頭の打ち所が悪く、意識が戻ったとしても、何らかの後遺症が残ってしまう場合があります。」
「それは…どんな症状が?」
「…まだ、意識が戻らないうちは何とも。」
「…。」
…何が起こるかわからない。
…何があってもおかしくない。
…それでも……。
「…兎にも角にも、先生。息子の命を救って下さり…どうも、ありがとうございました。」
そう言って、勇次郎は頭を深々と下げた。
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