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真琴side ⑨
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内山が珍しく緊張している?
考えてみれば 、今まで 内山とは仕事でこそチームを組んでやって来たものの お互いのプライベートには 余り触れずにきた。
確かに この数ヶ月は何度か話を聞いてもらった。でも 俺も恋人が男だっていう所までは話して無かったし 内山も必要以上 踏み込んで聞いてくる事は無かった。
内山の事に至っては、俺はほとんど何も知らない。内山は普段から 愛想も良く 周りとも上手く付き合っている。 反面、他人を懐に潜り込ませない。
誰とでも仲がいいけど 誰にも心を開いていないんだ。
内山が俺に対して どんな感情を持っているのかは分からない。でも 少なくとも こうやって心配や相談をしてくれる位には心を砕いてくれるのかもしれない。
話を聞いて 俺なんかが受け止めてやれるのかどうか分からないけど 俺も内山の力になりたい。
内山がそうしてくれた様に。
「俺 今まで結構テキトーに生きてきたと思う。」
内山は、静かに話し始めた。
「内山?」
「言ってなかったけど 俺、結構いい所の お坊ちゃんなの。このマンションも親がくれたんだ。就職祝いだって。引くだろ?」
成る程、それを聞いて 謎が解けた。このマンションに20代の普通のサラリーマンが住めるとは思えなかった。
でもテキトーって……?俺の知っている内山は そんなテキトーな男じゃない。プライベートについては全くと言っていい程知らないけど、仕事に対する姿勢には いつも感心させられるんだ。ちゃんと結果を出しているしテキトーにやってて叩き出せる数字じゃないと思う。
「驚かねーの?」
内山が 俺の反応を伺う。
「驚くというより 納得したよ。初めて部屋を見てから ずっと不思議に思ってたんだ。家族と住んでいる様には見えないし、俺ら世代が1人で住むにはチョット……。」
「ま、普通そうだよな。」
「でもそれは 別に内山のせいじゃないだろ?子供が狙って お金持ちの家に産まれて来る事は出来ないよ。俺は内山が家に胡座をかいているとは思わない。ちゃんと内山の中身を知ってる。内山は俺の知る誰よりも努力してるよ。だから絶対に引いたりしない。」
俺は 思ってる事をそのまま伝えた。
「やっぱ 鮎川には敵わねーな。」
「何が?俺、何か変な事 言ったかな?」
「いやいや、そうじゃ無いよ。俺の素性が分かったら 大概のヤツは態度が変わるんだよ。途端に媚び売って来るヤツとか 逆に妬むヤツとか。でも、鮎川は態度変えたりしないだろ?」
内山は、何を言ってるんだろう?当たり前じゃないか。親がどんなだろうと内山は、内山だ。
「言ってる意味が良く分かんないよ。内山は内山だろ?」
「うん。お前が そういうヤツじゃ無いのは知ってる。でも今まで俺の周りには鮎川みたいなヤツ居なかった。」
「内山?」
「俺の学校、 私立のエスカレーターでさ、皆 それなりに裕福な家の子供達だった。懐が暖かいと心が冷えるのか、それとも何かのゲームのつもりなのか、俺の周りは 親のスペックで友達付き合いの態度を変える様な連中ばかりだったよ。利用したり 見下したり 蹴落としたり 蹴落とされたり。そんなヤツらに囲まれて 俺も見事にひねくれた 。」
内山が ひねくれてる? 確かに何を考えているのか分からない所はある。いつもヒョウヒョウとしていて 掴み所が無いのも確かだ。でも俺が見る限り 理不尽に誰かを嫌ったり 物事を斜めから見たりする様なヤツじゃない。ただ、前から思っていたけど 内山は人の機微に敏感だ。いつも そうやって周りを警戒していたから 身に付いた特質だったんだろうか?
「俺も連中と同類だったって事。何処に行っても 何をしても 優遇され続けると、それがまるで自分自身の持つ力だと だんだん勘違いするんだよ。」
内山は続けた。
「でも所詮 全部親の力だ。学校も、就職にしたってそうだ。俺、うちの会社に入社した時も 何処かで俺以外の人間を見下してたんだと思う。」
正直、入社したての内山の事は覚えていない。同期の連中は他にも居たし 俺自身、仕事を覚えるので精一杯だった。気が付いた時には 内山は同期の中で一人抜きに出てた。
「そんな時にさ、出会ったんだ。」
「出会った?誰に?」
内山が軽く呼吸を整えた。
そして 2.3度瞬きをして言った。
「鮎川、……俺にも 好きな子が居る。」
内山に好きな人?初めて聞いた。内山は兎に角モテる。見た目は勿論だが、仕事も出来、性格も明るい。誰か1人と親密にしている所は見た事無かったけど 会社の人じゃないなら 見た事無くても納得出来る。
「そうなのか?知らなかった。」
「そりゃ気付かれない様に気を付けてたからな。」
「相変わらず用心深いな。その人、どんな人なの?」
内山が相談したかったのは その人の事だったんだろうか?正直、さっきまでの俺なら 申し訳無いけど相談に乗れなかったかもしれない。でも 自分の気持ちに一区切り付いた今なら 内山の相談に乗ってあげられる気がした。
まあ、恋の相談ってのは チョット想定外だったけど。内山も人並みに恋で悩んだりするのかな。よりどりみどり だと思うんだけど。
「凄く いい子なんだ。いつ見ても笑顔で一生懸命、その子の周りには 人が寄ってくる。自分の事は二の次で いつも周りに目を配らせている。でも仕事もプライベートも一切手を抜かない。他人には優しい癖に自分には凄く厳しいんだ。その子と出会って 俺は変わったよ。それまでテキトーに仕事して テキトーに女の子と遊んで テキトーに生きてきたのが恥ずかしくなった。その子の隣に立っても相応しい自分になりたくて 仕事もがむしゃらに頑張った。今の俺が有るのは全てその子のおかげなんだ。」
内山は 俺から視線を反らさずに一気に喋った。
「す、凄い いい人見つけたじゃないか!」
俺は自分の事の様に嬉しかった。内山がそこまで言う人なら 絶対素敵な人に違いない。内山は 人の表面だけを見ない。どんなに隠しても中身を見抜くんだ。人の機微を巧妙に感じ取るのも その人の中身を知ったが故に出来る業だと思う。
「ああ、ずっと側で見ていたよ。」
内山が優しい表情で俺を見ながら言った。
「もう付き合ってるのか?」
「……付き合って無い。」
意外だった。そこまで惚れ込んでいるのに 内山がまだ行動に出ていないなんて 信じられなかった。内山から告白されたら 断る女子はいないだろう。
「そ、そうなんだ。もしかして告白もまだなのか?」
「振られたよ。」
聞き間違いかと思った。内山が振られた?まさか?
「告白する前に 振られたよ。そりゃもうバッサリとな。」
「内山……。」
「その子には 俺なんかじゃとても太刀打ち出来ない位 好きなヤツが居るんだ。俺が入り込む隙間なんて無い位にな。」
とても辛い告白のハズなのに 内山は微笑んでた。もしかしたら 内山も俺とは違う意味で 自分の気持ちに区切りを付けたのかも知れない。でも……。でも……。
「諦めるなよ、内山!無責任な事を言うようだけど、まだ告白してないんだろ?彼女の口から直接 返事を貰った訳じゃないんだろう?いつも側で支えてあげてたんだろう?お前の良さが伝わらない訳が無い。その人の想い人がどれだけ素敵だろうと、内山が負けてるなんて絶対に思えない!俺は内山の味方だから!」
気が付いたら 大声を張り上げてた。何故だか分からない。涙が零れた。
「内山、諦めるのは いつだって出来るよ。それとも想いを貫き通すだけの相手じゃ無かったって事なのか?」
とても無責任な事を言っていると思う。内山が諦めるには それなりの理由があるに違いない。寧ろ、相手を本気で想うからこそ 自ら身を引く覚悟を決めたのかも知れない。内山はそういう強さを持ってる男だ。頭では 分かってる。なのに……。
「お前の気持ちを おざなりにしてやるなよ。ちゃんと言葉として相手に届けてやらないと……。」
内山が 黙って俺を見つめてる。
「その恋心、成仏出来ないよ……。」
この時俺は 自分自身に言った。
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