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その後、狭いキッチンに男二人で立ち 一緒に料理を作った。俺は匠に座っててっていったんだけど匠が手伝わせろといって譲らなかった。
『怪我しないでよ?』なんて言いつつも本当は嬉しかった。片時も離れたくなかったから…。俺、どんどん我が儘になってる。匠と想いが通じ合って、気持ちを確かめ合って、それだけでも お釣りがくる位満足なはずなのに、もっともっと匠を求めてしまう。匠はそんな俺の気持ちをお見通しなんだろうか。それとも匠も俺と同じ気持ちでいてくれてるのかな。
大丈夫、今度こそきっと何があっても大丈夫。匠を信じて付いていこう。
大きな背中を丸めて ネギと格闘する匠を見ながら 俺の心は穏やかに決まった。
二人で一緒に作った晩御飯は 一人で作るより時間が掛かったけど 今まで俺が作ったどんな御飯よりも美味しかった。
目の前で満足そうに食べる匠の指には案の定 絆創膏…。標準サイズのシステムキッチンは俺ですら低いのに 長身の匠にはかなり無理な姿勢を取らせてしまう。慣れない手つきで切ったネギは綺麗に繋がってたけど 勿論そのまま使った。
豚汁の上で 主張するネギは優しい味がした。
それから数日後のクリスマスイブの日、匠から残業だとLINEが入った。例えクリスマスだろうが俺達社会人には関係ない。 正月休みを控えた取引業者さんに合わせて この時期 追い込みで仕事量が増えるのは毎年のこと。でもこれを乗り切れば俺達にも正月休みが待っている。
クリスマスだからといって何も特別な事はしないから出掛ける予定もない。時間はたっぷりある。今日は匠の好物でも作って待っていよう。それに、匠が残業ならちょうどいいかも。クリスマスケーキの代わりじゃないけど あれを作ろう。
こないだのお風呂での熱弁を思い出して思わず頬が緩む。ふふっ。匠、可愛いかった…
俺はスマホにブックマークしておいたレシピとにらめっこした。
初めて作ったプリンは お世辞にも見栄えは良くなかったけど、愛情だけはたっぷり込めた。本当はお皿の上にプッチンしたかった。でも初心者には難しいんだって。それに匠の理想のプリンはカラメルソースたっぷりだから やっぱりカップのままじゃないと形が保てない。
試行錯誤しながら作ってたら思いの外時間が掛かってしまった。なんとか卵が固まったのを確かめて 作っておいたカラメルソースをたっぷり掛ける。
どうか喜んでくれます様に…と祈りながら、匠に見付からない様に そっと冷蔵庫の奥に隠した。
ちょうどその時 駅に着いたとLINEが来た。後15分、スピード勝負だ。
常温に戻しておいた海老に下処理をして パパッとエビチリを作る。これは匠の大好物。もう何回も作ったから目を瞑っても作れる様になった。
オーブンの中では骨付きの鶏肉が香ばしい焼き色を付けてグルグル回ってる。彩りのいいサラダのドレッシングは勿論手作り。仕上げに柚子の皮をすりおろして少し加えたら ぐんと風味がアップする。これも匠の好きな味。
うん、なんとか間に合いそう。俺はホッと胸を撫で下ろした。
今日は好きな人と過ごす 特別な日。でもそれはクリスマスだからじゃない。 昨日も今日も明日も明後日も…毎日が特別。
ピンポーン
呼び鈴が鳴った。途端に俺の心臓が跳ねる。
走る程の距離じゃないけど 玄関まで走って行き ドアを開けた。
『ただいま。』
『おかえり。』
匠が腕を広げるから 俺は黙って胸に飛び込んだ。
香水なんて付けてないはずなのに 匠はいつもいい匂いがする。昔から好きな匠の匂い。
しばらく匠の胸に埋まっていたら 優しく俺を引き剥がし ただいまのキスをチュッとされた。
『真琴…、腹減った。』
そして 情けない顔をして匠が呟く。そういえば俺も…と思った瞬間、二人同時にグゥーッと腹の虫が鳴って一緒に吹き出した。
匠…、俺 今とても幸せなんだ。本当に幸せ。
一緒に居てくれて有り難う。
ずっと待たせてしまったけど、俺、今日こそは大丈夫な気がするんだ…。
匠の後ろを付いてリビングに向かいながら 俺は拳をギュッと握った。
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