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匠はまだ来ない。お願い早く来て…とドアを睨む。
匠の逞(たくま)しい腕に 熱い視線に 激しい劣情に、早く触れたい。
匠がまだ俺を求めてくれるなら 今度こそ、今度こそ、俺の全てを捧げたい。
俺……凄く勝手な事言ってる。
俺の中途半端な覚悟で また怯んで匠を拒んだ。もう何度目かも分からない。
でもきっと最初から覚悟なんていらなかった。
俺は最初から匠の物だったんだから。
頭空っぽにして俺を全部匠に渡せば良かったんだ。
自分の指でさえ触れる事を許さない"そこ"は、匠を待ってる。
それが答えだったんだ。
なんだ、簡単な事だった。
だって匠の全てが愛しい。不器用で真っ直ぐな性格も、俺を捉えて離さない熱い眼差しも、優しい声も、纏(まと)う空気も、吐く息でさえ全て。
スーパーで見た親子の光景に どす黒い感情が沸いた時、俺は明らかに嫉妬していた。匠の隣に居ても何ら違和感の無い "女性" に。
確かに俺は匠の家族にはなれない。この国では どれだけ愛し合ってても同姓同士の結婚は出来ないから。でも俺は女性になりたい訳じゃない。願ったところでなれる訳でもない。
でも、だから何?
それは初めから分かってた事だろう?
俺は初めから "女性" と同じ土俵になど居なかった。
それなのに 俺は多分、見た事もない 匠の浮気相手を心のどこかで妬み、羨(うらや)み、張り合ってた。
俺の匠を 例え 一時でも俺から奪った "女性" を許せなかった。
それと同時に、浮気された時、きっと俺は無意識の内に女性には敵わないと敗けを認めてしまった。
やっと分かった、俺は匠が怖かったんじゃない。
女性を愛撫した同じ腕で愛されるのが怖かったんだ。
女性を抱いた後で、男の俺の身体を匠が本当に満足してくれるのか 怖かった。やっぱり無理だと言われるのが怖かった。
だから逃げてた。
匠を失いたくないから。
匠は何度も俺を好きだ、愛してると言ってくれてたのに。馬鹿だ… 俺。
匠が入って来たら、まずちゃんと謝ろう。さっきちゃんと謝れなかったから。そして 俺が思ってる事、全部伝えよう。どれだけ言葉に詰まっても どれだけ時間が掛かっても、匠はきっと待ってくれる。
「真琴…?入るぞ?」
来た…
匠の声を聞いた途端、胸が一杯になった。色んな思いがこみあげてきて、そんなつもり無かったのに 涙が溢れてきた。
「真琴?」
匠が俺を呼ぶけど返事すら出来ない。今声を出したら きっと泣いてしまう。俺が泣くとまた匠が傷付く。
声を出す事も、振り返る事も出来ない。
泣くな 泣くな、俺はまだ匠に何も伝えてない。ちゃんと言葉に乗せて気持ちを届けるんだ。いつも匠がそうしてくれている様に。
感情の昂りを抑えるのに必死になっていたら 背後に匠の気配を感じて 思わずビクッとした。いつの間にか俺の後ろの僅かなスペースに入って来ていた。
「抱き締めてもいいか?」
匠は俺を怖がらせない様に いつも確認してくれる。
その気配りが 嬉しくて淋しい。
コクンと頷くと両腕で優しく包み込んでくれた。
ああ… 匠だ…
待ち焦がれていた温もり。トンと匠にもたれ掛かると凄く安心した。
安心したら 抑えていた涙が また溢れそうになった。
「ごめん、一人にして。もう、泣いてない?」
泣いてる、俺、泣いてる。匠が好き過ぎて…辛い。
でもこれは 嬉し涙なんだ。
だから心配しないで… という思いを込めて 小さく頷いた。
「…嘘つき。」
急に視界が反転して 目の前に匠が居た。咄嗟の事過ぎて 涙を隠す暇も ごまかす事も出来ない。ただ、匠を見つめる事しか出来なかった。
「泣いていいよ、怒ってもいい。隠さないで?全部俺に見せて?」
そう言った匠が 優しく笑った。でもその顔は泣いてる様にも見えた。
あ…俺、また 匠にこんな顔させてる…。
違うよ匠。そんな辛そうな顔で無理に笑わないで?これは幸せな涙なんだ。
俺、凄く幸せだよ?匠の側に居られて 凄く幸せ。
匠も… 俺と同じ気持ちでいてくれるんだよね?
まだ全然気持ちを伝えられていなかったけど、上手く言葉が出て来ない。頭の中、開いて全部見せてあげれたらいいのに…。
俺は匠から贈られた 大切な指輪をギュッと握った。
「…た くみ…は、こっ…んな っ 俺でも…いい…の?」
こんな事が言いたかった訳じゃない。
まだ謝ってもない。
でも、咄嗟に出た言葉は やっぱり一番不安に思ってた事だった。
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