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私は、負けるもんかと歯を食い縛ってた昔の自分とは すっかり別人に成り果てていた。麻琴から奪ったあの男はもう用済みで、進学、上京を理由に別れた。何かウダウダしつこかったから連絡取れない様に携帯も変えた。
私は進学してから社会に出るまでの四年間、思う存分大学生活を謳歌(おうか)しまくった。
大学では "変装" なんかしなくても特に孤立する事も無かった。大学生は色んな個性の集まりで、小、中、高校みたいに狭い世界の話でもない。可愛い位でハブられないし それ位の年齢になると妬みうんぬんより損得勘定で行動する。だからなのか、私の周りにはいかにも自分に自信がありそうな派手目な男女が 自然と集まってきた。要するに自分も "目立つグループ" に所属していたいのだ。
彼らは私を利用している。だから私も彼らを利用した。
麻琴と同じ轍(てつ)だけは踏まない様に 余り前にしゃしゃり出ず、麻琴タイプの仕切りたがりには あえて従い実権を持たせる振りをして 裏で上手く皆を操った。常にグループ内を観察し人間関係のバランスも上手く保った。
面倒臭いとは思わなかった。大学生活の四年間を楽しく過ごす為には必要なプロセスで、そう思える位には 麻琴が墜ちていく様は 本当に滑稽な記憶として私の中に刻まれていた。
大体 固まって行動していた私達は 何処に居ても目立つ存在で、その内周りから憧れや羨望の眼差しで見られる様になり、高校の時とは違う意味で一定の距離を置かれた。
それはまるで自分達が "一段高い所" に居ると言われてるみたいで凄く心地の良いものだった。
自分が特別だと勘違いした私は 次第に勉強はそっちのけでプライベートに重きを置く様になっていく。至極自然な流れだった。
特に合コンは、その日のメンバーの中から一番の上玉をGETしては悦(えつ)に浸れる 楽しいゲームの一つだった。
ほぼ十割に近い勝率の中で黒星がついたのは一度だけ。歴史こそ浅いけど 快進撃を続け、度々経済情報誌にも取り上げられている UchiyamA Corporation の跡取り、内山達也。彼だけは落とせなかった。
初めて見た瞬間 その洗練された容姿から目が離せなかった。彼の素性を知ってからは尚の事で、将来有望、見た目完璧、私は直ぐに彼をロックオンした。
その日は当然の様に彼にお持ち帰りされた。
ここまでは計算通り。
身体の相性もバッチリで 彼と付き合いたいと思ったけどアドレスすら教えて貰えなかった。そんな事初めてで自分から聞いたのも初めてだった。
『また 連絡してくれる?』
この私がプライドを曲げて聞いたにも関わらず、
『うーん、どうかな。』
と言ってはぐらかす。それならば と、
『内山君の携帯 教えてくれないの?』
と 直球勝負に出た私に対して、
『俺から連絡するよ。番号、これに書いといて。』
何とメモ用紙を渡して来たのだ。
ああ…、こいつは食えない奴だ。
最初から私と同じ匂いがするとは思っていたけど 彼は私なんかより一枚も二枚も上手だった。
『絶対 連絡してね。』
『うん、するする。』
騙し合い、化かし合い。
私は本当のアドレスを書かなかったし、書いてたとしても きっと連絡は来なかった。
だって別れ際、彼はこう言ったから。
『じゃあ 近い内に連絡するよ、ユキチャン。』
名前くらい覚えてよ…
高校デビューの私とはスキルが違う。彼は根っからの遊び人だった。きっと幼少時から "一段高い所に居る人" だったのだろう。まさに強者が弱者に向ける笑みを向けられながら私も微笑み返した。
『有り難う。ユキ、連絡待ってるね。』
意地で返した私の言葉に 白い綺麗な歯を覗かせながら 彼は一度も振り返らずに帰って行った。
もう二度と会う事は無いだろうけど もし再会する事があったら 彼は "今の私" を見て何を思うだろう。
たっぷり四年間かけて育んだ 歪んだ性格を引き連れ社会に出た私が、初めて本気で人を好きになり、無様に砕け散った。その時、彼に言われた言葉が とっくに無くしたと思っていた "昔の私" を思い出させてくれた。
そして 学生時代の様な損得勘定なんかじゃなく、私の為に本気で泣いてくれた人が居た。
その人達に出会えたおかげで 私は自らの行いの愚かさ 恥ずかしさを知り、もう一度変わりたいと思える勇気を貰った。
彼も…内山さんも、そんな人に出会えただろうか。自分の為に本気で泣いたり怒ったりしてくれる人に。その人に出会えたおかげで自らの生き方が180度変わる位の人に。
もし出会えていたなら いいなと思う。
彼は当時の私と同じ匂いがしたから。
自分を特別だと勘違いし、他人を見下し軽んじる。利用出来る物は利用し、要らなくなったら捨てる。
それでいいと思ったし、それが賢い生き方だと思ってた。
あの人達に出会わなければ、多分私はあのまま つまらない人生を歩んでた。
今 私は勤めてた派遣会社を辞め、スタイリストを目指し服飾系の専門学校に通っている。服のデザインや素材などの専門知識を身に付ける為だ。同期の子達より歳も重ねてるし、色々遠回りもした。でも恥ずかしいとは思わない。
『遅すぎるなんて事は絶対にない。』
あの人が言ってくれたから。私の為に本気で泣いてくれた お母さんみたいな暖かい人に。
あんな失礼な態度を取ってた私を 許してくれ、包み込んでくれた。
大学を卒業して あの人達に出会って 私は変わった。
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