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「悪い、今日は飯は要らない。」
「…分かった」
毎日作っていた食事を作らなくても良いと言われるのは何だか寂しいものだ。しかも帰りがかなり遅いとなると、日付が変わる前に寝てしまう僕はあの広いベッドで先に一人で寝なくてはいけない。朝食を食べながら僕は小さく息を吐く。
「どうかしたのか?」
「何でもない。あ、コーヒー淹れるね」
隆哉が食べ終わりそうだと気付き、急いでコーヒーを用意する。いくら家事を頼まれているからと言って、隆哉が毎日家で食事をしなければいけないわけではない。今までは偶々予定が入らなかっただけだ。それなら今日は帰りに買い物へ行こう、その帰りに何か食べようか、僕はコーヒーを淹れながら胸に広がる寂しさを必死に誤魔化していた。
いつもより少し遅い帰宅時間になってしまった。先ず洗濯物を取り込み、そして風呂場の掃除をしてお湯を溜める。隆哉はまだ帰って来ない。洗濯物を畳んで、大して汚れてもいないキッチンを磨いて、床を拭いて、ラグを隅々までコロコロして、コーヒーを飲みながら一息吐いても、隆哉はまだ帰って来ない。
「先にお風呂入っても良いかな…」
思いつく限りの事は大体やってしまった。もうする事は何もない。
「…嫌だな、この感じ」
別れた恋人との冷え切っていた生活を思い出す。少し涙が滲んで、これは駄目だと慌てて風呂場へ行こうとしたその時、玄関の鍵が開けられた音がした。
「お帰り!」
良かった、帰って来てくれた。僕は嬉しくて隆哉の元に駆け寄る。でもふと何か違和感を感じた。
「…酔ってる!」
隆哉はいつもはするどい目元を柔らかくし、しかも酔ってるよと頷いた。長い付き合いだけれど、隆哉がここまで酔っぱらっている姿を見たのは初めてだった。唖然としながらふらふらと中に入って行く隆哉の後ろ姿を見ていると、隆哉は足を滑らせこけてしまった。慌てて床に寝転ぶ隆哉の傍に行き顔を覗くと、目は閉じられ安定した息遣いが聞こえる。僕はほっと息を吐くと、隆哉の髪を撫でた。
「何かあったの?」
接待でもあったのだろうか。でもお酒に強い隆哉がこんなに酔っぱらうなんてきっと手強い取引相手だったに違いない。隆哉が頑張ったのは分かる、でもこの状況はあまり良くない。このままだと風邪を引くし、体も痛いはずだと僕は隆哉の体を揺すり、声を掛けた。ついでにネクタイも外しておいた。
「隆哉!起きて、ベッドに行こう」
何度も声を掛け、やっと隆哉の目が開いた時、突然腕を引かれ、隆哉の体の上に倒れ込んだ。
「うわっ!」
そして隆哉は僕の体に腕を回すと、強く抱き締め、耳元で何か呟いた。
「な、何?」
もう一度よく耳を澄ませる。
「好きだ、ずっとお前が好きだった」
僕は目を見開き、隆哉の腕の中でその言葉の意味を必死に理解しようとしていた。
誰が好きなの?そんな人がいたの?でも隆哉に想われる人は幸せだ。きっと、誰よりも幸せにしてくれる。
「それが、僕なら…」
思わず漏れた言葉に驚き、慌てて隆哉の腕から抜け出す。隆哉の目は閉じられていて、また眠ってしまったようだった。僕はクッションと毛布を取りに行き、隆哉の頭を持ち上げクッションを滑り込ませた後、毛布を体に掛けた。そして部屋の電気を消すと、隆哉に掛けた毛布に潜り込み、目を閉じた。
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