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一夜明けた二人は
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咲耶は目蓋の裏に映る眩しい朝日の光で目を覚ました。幾分か怠い身体をのろのろと起こすと、働かない思考で辺りを見回した。自身の部屋とは明らかに違う部屋の様子と裸のまま眠っていた自分の姿を見て、咲耶の眠気は一瞬で吹き飛んでいった。昨晩この部屋で行った行為を思い出し、憧れの人に求められた喜びと身体を許してしまった後悔とが入り混じった複雑な感情に襲われる。とにかく冷静になろうと、咲耶は昨日脱ぎ捨てたままだった服を探す。
「あ・・・。」
咲耶が着てきた制服は、ベットルームにあるクローゼットの扉に丁寧にハンガーに吊るされていた。有紀がそうしておいてくれたのかと思うと、胸にじんわりと熱いものがこみ上げる。他人の部屋で裸のままベットから出ることに多少抵抗はあるが、今回ばかりは仕方がない。咲耶は深い溜息を吐くと、ベットルームの扉が閉まっていることを確認し、制服に着替えるべくベットから這い出した。
制服に着替えリビングに向かうと、丁度2人分のマグカップを持った有紀と鉢会わせした。特待科の寮の各部屋には簡単なキッチンが備え付けられている。有紀は咲耶を見ると少し驚いたような顔をしたが、直ぐに柔らかく微笑んだ。
「おはよう。良く眠れた?」
「・・・おはよう。」
「まだ眠ってて良かったのに。あ、コーヒー飲める?」
咲耶は頷くと、有紀から差し出されたマグカップを受け取った。まるで初夜を済ませた恋人たちのような会話に、咲耶は居た堪れない気持ちになった。誤魔化すようにコーヒーを一口だけ口に含むと、ほろ苦い味が口全体に広がる。高鳴っていた心臓が少しだけ落ち着きを取り戻した。
「ミルクと砂糖はいる?」
「いや、このままでいい。」
「そう、なら良かった。まあ座ってもう少し寛いでいきなよ。」
笑顔の有紀に促されるままソファーに腰掛けた。昨日の出来事が嘘のように有紀は自然に振る舞っている。それならばと、咲耶も出来るだけ普段通りの態度を努めた。マグカップを置こうと、センターテーブルに視線を移すと、無造作に置かれた報告書が目に入り、おもむろに手に取る。
「見なくて良い。」
「おい・・・。」
隣に座った有紀にすかさず奪われ、咲耶は不平の声を上げた。何の報告書なのかは容易に予想がついた。そしてなぜ有紀が取り上げたのかも。咲耶を傷つけまいとしての行動なのだろうが、風紀委員長である咲耶には文化祭で起きた昨日の事件について書いてあるであろうその報告書を読む義務があった。
「俺は風紀委員長として、昨日起こった問題を正確に把握する必要がある。」
「全く、生真面目にも程があるよ。」
珍しく眉間に皺を寄せ、心底嫌そうにしながらも有紀は渋々報告書を咲耶に差し出した。
「月瀬は今回被害者なんだ。風紀委員長なんて立場忘れて、俺に甘えればいいのに。」
有紀の言葉に咲耶の胸はまた高鳴り始めた。
「・・・そうもいかないだろ。こういう時こそ立場を弁えて気丈に振る舞うべきだ。」
緊張で声が震えそうになるのを必至で堪えた。報告書を持つ指に力が入る。報告書を真剣に呼んでいるフリをすると、有紀は諦めたように溜息をつき、コーヒーを飲み始めた。その様子を横目で確認し、ようやく集中して報告書に目を通す。製作者は副運営委員長の虹原那波のようだ。偶然あの場に居合わせたからだろうかと若干違和感を覚えながら読み進めていたが、そうではないことに気付く。
「・・・虹原と雨京の共謀・・・、仕組まれたことだったのか。」
報告書を読み終え、咲耶は有紀が執拗に読ませたがらなかった理由を改めて知った。真実は咲耶が予測していたよりも残酷だった。天音と那波に良い感情を持たれていないことは、文化祭の準備を通して薄々勘付いていたが、まさかここまでとは。何が書かれていても大丈夫と覚悟して読み始めたつもりだったが、流石に衝撃を受けた。他人に恨まれるというのは、やはり気持ちの良いものではない。しかしここで動揺しては有紀に心配させてしまう。
「2人の処遇は・・・?」
気持ちをぐっと抑え、咲耶は尋ねた。
「文化祭が終わった明日、理事長も交えて2人の処遇を話し合うつもり。希望があれば聞くよ。月瀬にはそれを決める権利がある。」
有紀の手が咲耶の手を優しく包み、そこから熱が身体全体に伝わる。真っ直ぐ咲耶を見つめるヘーゼルの透き通った瞳が、揺れる心を和ませた。
「いや、特にはない。ただ俺もその話し合いには参加させて欲しい。2人がどんな思いでいるのか2人の言葉で聞きたいんだ。」
咲耶は微笑みを浮かべた。有紀は咲耶の微笑をみて目を丸くした。そういえば有紀の前で笑顔を見せたのは初めてだった気がする。
「・・・俺も笑う時はある。」
気恥ずかしさで顔を背けつつ、咲耶はぶっきら棒に言った。その様子に有紀は声を立てて笑った。
「そりゃそうか。いや、あまりにも貴重な笑顔を拝めたなあと思ってさ。・・・うん、笑った顔はもっと綺麗だ。」
異国の王子のような華やかな笑顔で言われ、咲耶は益々羞恥心が湧き上がる。つい油断して笑顔を見せてしまったことを激しく悔やんだ。昨日一線を越えたことで、咲耶自身気づかない気持ちの変化が起こっていた。
「それで、俺も参加して良いんだな。」
「もちろん。本来は三大委員長全員が参加するものだ。今回は例外で月瀬には声をかけなかったが、月瀬が参加したいと言うならば参加して欲しい。」
有紀の心遣いには感謝しているが、やはりきちんと2人に向き合いたい。賢い2人だ。理由なく人を襲わせることはしないだろう。咲耶の行動の何かが2人に事件を起こさせてしまった。その真意を聞き、受け止めなければならない。
「無理はしないで。俺も側にいるから。」
有紀の手がそっと咲耶の頬に触れた。咲耶はこの束の間の甘い一時を噛み締めるようにその手に頬を寄せたまま、静かに瞳を伏せた。
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