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愛が欲しいと思う事すら諦めたのはいつだったか。物心ついたときには何も言えない子になっていた。寂しいとか辛いとかあれが欲しいとか。我が儘一つ言わない。表情すら面に出さない自分を誰が愛してくれるものか。
なんだ、悪いのは僕自信だったんだ。それならなんて残酷なのだろう。独りぼっちで静かに泣く小さく幼かった自分を見下ろして、浅はかだった純粋な自分を他人事のように笑った。そして、泣けなくなった今も昔も何一つ変わらない自分を重ねて膝を抱えた。
「ん……」
目を覚まし、ほっと胸を撫で下ろす。夢を見ても何一つ良いことがない。いい夢も悪夢も同じでという意味を含めて。
上半身だけ起こして、下をみれば藁で出来たのだろうか、柔くもないマットを撫でる。
倒れたまでは覚えている、確かに。絞め殺されそうになった首を一撫でして、痛く無いことを確認する。
辺りを見渡してみれば、誰も居ない。此処は洞窟内なのだろう、岩が重なって山の下なのかじめじめと湿気を帯びた空気を感じた。
倒れた自分を運んだのだろうか…白蛇様が?絞め殺されそうになったのにこんな思考が出来るとは。
「君、さっきから落ち着きないね。」
「えっ?!」
慌てて声の主を耳で追い、視線を向かわせる。視線を下に向けて確認すれば、自分の膝横に横に小さな白蛇がいた。
目を見開いて驚くのは大袈裟かも知れないが、白蛇ならきっと先程の白蛇様なのだろう。
「なんだい、その顔は。私が弱ってることなんてとうに知っているだろう。今さら驚く事もない。」
「いや…そうですが。…すみません」
何を答えて良いかも分からず、視線を逸らしてばつが悪そうに俯いた。
「内気な人の子だね。人間は何時だって傲慢で欲深い。争い、取り合う。君なら今私を殺すのだってその気になれば出来るかもしれない。人の子よ、いや。神の使いか。何をしにここへ?」
物騒な発言に言葉を失う。白蛇様を殺すという意思は自分に無くとも、そう思われているのだろう。それはまるで弱肉強食の世界で、自分はすでに負け組だと言うことを白蛇様である彼は知り得ない。
「神様に貴方を任されました…ッつ!!」
言葉を話した瞬間、白蛇様が人になり僕の上に跨がった。首を押さえられ、またこのパターンかと呼吸がままならないまま、表情を歪める。
見下ろす美しい顔は酷く警戒したように、牙を剥き出しにしていた。
「神の使いは殺せない。使いを出した神を殺さないとね。人の子のお前に私を理解するだと?馬鹿にしよって。お前は自分の可愛さでそれを了承したのか?…私を救う意味が分かっているのか。答えよ、痛い思いをしたくないのならばな。」
首を絞められているのに問いかける白蛇に、無謀だと思いながらも精一杯の声で反抗をする。
どのみち何を言おうと自身が痛くなくなるようにはならないだろう。
「…も、ま…せん。」
「なにが言いたい。」
「…っ、どのみち僕にはもう…何もありませんっ!」
息が切れるなか精一杯に叫んだ。
この先も未来も何もないのだ。それを捨てたのは自分で、全てを投げ出し逃げた。死すら怯えず、楽を選んだ。だからこそ、彼に捨てられてしまえば、この先生きる意味は何一つ無くなってしまう。
また前と同じ、何もない空っぽの自分。
揺るぐことなく白蛇様を見据える。それは、今出来る精一杯の悲願。
「訳がわからない。お前は私が怖くないのか?命乞いするどころか逆らうとは。いや、開き直りか…どのみち私の命はそう長くはない。お前の神が気がすむまで勝手にいればいい。」
そう言えば立ち上がり、洞窟内の更に奥へと足を進めてその場を立ち去っていく。
神の使いだからと言って、自分とて全てを理解した訳ではないのだ。
救う意味が分かっているのか。
そういった彼の言葉が引っ掛かった。
訳の分からないこの胸の痛みと、これから先の不安で張り裂けそうな身体を胸を腕で抱える。
「誰でもいい…もう一度生きる価値を下さい…じゃないと……」
そこには何時もと変わらない惨めな僕がいた。
遠目で見る白蛇に気付かないまま。
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