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8月2日のside窪田くん①
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橘は優しい。
伸びに伸びた約束が結果キャンセルになっても怒らないし、それどころか過剰なまでに俺を気づかってくれる。
俺みたいなよくわからない男を好きだと言って、支えてくれて、元気付けてくれて。
奇特な男だ。
ついでに、行動がバカで変態で気持ち悪いなと思うこともあるのだが、それを差し引いても余るくらい、橘は優しい。
こう見えて、俺は橘に感謝していた。
「……」
予定がズレ込んでいるが、なんとか挽回しないといけない。
橘と落ち合う正午までに目当ての店で買い物を済ませようと、俺は地下鉄に乗った。
2日がかりで、やっと店に向かえる。
「……」
自分の口角が痙攣していた。
地下鉄の暗い窓ガラスに映る自分を確認すると、俺の顔はやはり無表情だった。
でも口角はピクピクと震えている。
こんなににやけてしまうのはどれくらいぶりだろう?
改札を出て、俺は初めて行く店をキョロキョロと探し、やがて見つけた黒いガラス張りの小さな店の扉を開いた。
「いらっしゃいませ」
俺は店員に一瞬視線を合わせ、そして店内を見渡し、それから再び店員を見つめた。
「…バングルの取り置きをお願いしている者ですが」
「あぁ、えぇと….窪田様ですね?ご用意しております」
店員はにこやかに笑い、レジ横のテーブルへ俺を案内した。
橘は雑誌の中で気に入ったものがあるとページの端を折る癖がある。
先日、俺は橘の部屋の新しい雑誌に折り目を見つけた。
そのページに載っていたのが、このアクセサリーショップのシルバー製のバングルだ。個性的だけどシンプルなデザインに細かい細工。
「こちらです」
店員がトレイに乗せて持ってきた実物は、雑誌の写真以上にかっこいい。
俺の好みでもあるし、橘にとても良く似合いそうだ。
「プレゼントでしょうか、ご自宅用でしょうか?」
「プレゼントです」
「メッセージカードもご用意できますが、いかがですか?」
「………………………………」
迷った末、俺はうなずいた。
そして淡いブルーのカードと万年筆を受け取り〝Happy Birthday〟と書いた。
明日、8月3日は橘の誕生日だ。
決して、リサーチしたわけではない。
俺たちが付き合うことになった日に、橘は俺の誕生日を聞いてきて、そして俺は橘の誕生日を聞かされただけだ。
聞かされたからには祝うべき。
それだけだ。
別にイベントごとに浮かれているわけではない。
「ありがとうございました」
店員に見送られ、俺は小さな紙袋を手に店を出た。
時刻は11時を過ぎたばかり。
予定より早く橘のところへ向かえそうだ。
再び地下鉄駅に向かった時だった。
見知った顔が、同じような顔の子供を連れて歩いていた。
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