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部長の苦悩
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『着替え、置いておきますね』
ドア越しの彼の声に うん、と返事をし 蛇口を捻る。
温かいお湯を頭から被ると、
一日の疲労も流されたような気分になっていく。
「…はぁ……」
学生の頃 セックスは恋人としか
してはいけないものだと思っていた。
もう何年も前の話で 今更そうは思わない。
実際今では桐谷とそういう関係になっているのだ。
昔から 浮気が許せない性分だった。
“どうして人は目移りするのか”
“どうして一人だけを好きでいられないのか”
そんなことを毎日のように考え、恋人を追い詰め、
別れを告げられる。
それが俺の人生で、これからもそうなのだと思っていた。
しかしある日、自分の酒癖の悪さに気がついた。
特にひどいのは 疲れが溜まっている時だ。
動けなくなるほど飲み、
翌朝 目が覚めると見慣れない天井が広がっている。
そこまでどうやって来たのかも覚えておらず
ただ激しい頭痛と吐き気に耐えた。
それでも酒をやめられないのは
飲んでいる間だけは 何も考えずに済むからだろう。
仕事のこと、恋人のこと、これからのこと。
生活しているだけで生まれてくる悩みや不安に
押しつぶされそうな毎日。
子どもの頃は“早く大人になりたい”と思っていたが
実際になってみれば 世の中の穢さが見えてくる。
あの頃は幸せだったのだと 今更になって気がつくのだ。
一通り身体を洗い終え キュッと蛇口を閉める。
ドアを開けてバスタオルを肩にかけた。
ふわっと香る柔軟剤の匂いは 彼の匂いと同じで、
どこかほっとする。
自分の服に染み付いたタバコの臭いとは全然違うのだ。
「…さみぃ」
人は変わる。
今この瞬間も 変わっていっている。
昔は許せなかったことが、
今では受け入れられるようになったり。
昔は理解出来なかった気持ちが、
今では少し考えられるようになったり。
人と出逢うことで価値観は塗り替えられることもある。
だけどもちろん、変わらないこともある。
未だに浮気は許せないし
不倫なんて もってのほかだ。
もしもその変わらないことを変えてしまったら
それはもう自分ではないのだ。
誰かに合わせて自分を変える必要は無い。
ありのままの自分を愛してくれる人と出逢えばいい。
ありのままの自分を受け入れてくれる人と出逢えばいい。
その出逢いはきっと、すぐそばにある。
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