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部長の苦悩
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「…帰っちゃったかと思いました」
翌朝。
ベランダで煙草を吸っていると、
背後から桐谷の声が聞こえた。
「すみません、昨日は…その」
申し訳なさそうに目を伏せ 俺の隣に立つ。
口をつぐんだ彼は どこか寂しげにも見える。
「俺も…ごめん、加減できなくて」
朝日に目を細め 携帯灰皿に煙草を押し付けた。
非喫煙者の前で、しかも若い人の前で
吸いたいとは思わない。
桐谷も決していい気はしないだろう。
「…いえ、ありがとうございます」
“気持ち良かったです”と言って微笑む彼。
そんな彼の本心は 何度身体を重ねても見えない。
その言葉を誰にでも言っているのか。
誰とでも簡単にこういう関係になるのか。
俺は、弄ばれているのか。
尽きない疑問が 彼への疑いを生み出す。
「部屋、戻ろう。風邪引くぞ」
桐谷を疑ってしまうのは、
俺が彼に何かを期待しているからだろう。
何も期待しなければ。
見返りを求めなければ。
彼に干渉することも、疑うこともない。
ましてや こんな鬱々とした気持ちにはならないのだ。
「…宗司さん」
扉に手をかけると 彼に呼び止められた。
手を止め 静かに振り返ると、腰辺りに手を回される。
桐谷の表情は見えないが
伝わってくる微かな震えが 彼の心情を表していた。
「……僕らって、何なんですかね」
彼は、何を言っているのだろう。
一瞬 言葉の意味がわからなくなった。
「……知らねーよ」
自分でも驚くほどの低い声。
咄嗟にでた言葉は ひどく無責任で。
ゆっくりと解かれていく手。
俯いたままの桐谷。
頬を撫でる冷たい秋風。
「そう、ですよね…」
無理矢理作った笑顔が 胸を抉る。
今にも泣きそうな瞳が 喉を詰まらせる。
桐谷は何を望んでいるのだろう。
俺が“セフレ”と言えば良かった?
俺に“恋人”とでも言って欲しかった?
俺は どうすればよかった?
「…ごめん、帰るわ」
自分だけ傷ついたような顔をするな。
こんな関係を始めたのは お前自身だろ?
元をたどれば俺が悪いのは間違いない。
でも あそこで終わりにすれば良かった。
誘いに乗った俺も俺だ。
だけど 最初から俺に拒否権なんてなかったじゃないか。
込み上げる憤り。
桐谷にではない。
言い訳を繰り返す 自分自身にだ。
…これじゃまるで 餓鬼みたいだよなぁ。
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