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数字と台本
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プロとの掛け合い。
迫力に呑まれそうで、怖い。
一度動画に合わせてアフレコのテストをする。
録音時にマイクが拾いやすい台本のペーパーノイズや足音、椅子に座るときの音に気を付け、俺に振り当てられた役の出てくる秒数をチェックする。そしてやっと演技にのめり込むことができる。
00:34.54.00
あと5秒。エクトが喋る。
・・・マイク前が開く。
「お!おはようございます、カルヤ様!」
変だ。
「君は・・・赤のエクトくん、だね。そちらのお客人は?」
「えっと、家出みたいで・・・」
違う。
何も感情移入できない。
頭の中は数字だらけ。軽い混乱。
_____動画が止まった。
『マキノくん、台本見ないで』
アニメ界の三傑。伊集院監督。彼の声が、アフレコルームに響いた。
音響室から、マイクを通して連絡を取っている。
ふと後ろを振り返ると、伊集院監督と音響監督が何か話していた。すると話がまとまったのか、またマイクに声を通す。
『台本通りに読まなくてもいい。数字も気にせずに役にのめり込んでみて』
気持ちが軽くなった。
そうだ。タイミングを逃さないために、役をおろそかにすることはプロなんかじゃない。
監督は俺に猶予をくれた。そう思う。
「やってみます」
______________
_________
_____
『はい、オッケイです』
音響監督の声がアフレコルームに響く。
一時はどうなるかと思ったが、なんとか無事終えることができた。
「お疲れ、空」
「下っ手糞だな!空豆!」
陸さん、海さん。録音が終わると、すかさず声をかけてくる彼ら。心がボロボロになりかけていたので、今の俺には、アメとムチのアメのように感じられた。
加えて、「でも___」と付け足す陸さん。
「悪くはない」
「マジで。オレ、チビるかと思った。まんまエクトなんだもんよ。新人の癖に、いっちょ前にオーラだしやがってさ~」
そこに、宿人先輩が現れる。
「図に乗るなよ、後輩。あれは天野さんのお陰でもあるからな。お前に合わせて雰囲気抑えてたぞ」
抑える。
そうか、俺が彼のペースに呑まれなかったのは、彼が制御していたからなのか。
「でもよ、お疲れ。初めてのアフレコについて感想は?」
ごくり、とつばを飲み込む。
「俺以外の声優さんが怖い・・・」
本音を言ったつもりだったのだが・・・。
ぶはっ!と吹き出す、チャラ男、海さん。それ以外にも、陸さんも肩で笑う。
「怖い・・・!だってさ!みんな初めはそう!当たり前のこと!」
「笑わないで下さいよ~!」
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