アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
本当に責任の意だけ?
-
時間を掛けてコクンと頷いた。
アイツはにんまり、という表現がピッタリな笑みを浮かべて腕を広げた。
「おいで」
たった一言。アイツはそのまま何もしない。
「っ……」
僕からその腕の中に収まりに来いって…。
「責任、とってくれるんでしょ?」
「ぅ……とる」
「じゃあ、はい。おいで、泪」
生き生きと楽しげなアイツの命令に従わないといけない。だって責任があるから。
立ち上がりアイツの前でやっぱり躊躇してしまう。
いや、でも…座る…だけだし。椅子に座るのと変わらない変わらない。
思い切って、本当に本気で、アイツの膝の上に跨るように座った。
「よく出来ました」
アイツは広げていた腕を僕の背中に回し、抱き寄せる。膝の端に座っていたのに、ぐっと身体の方に寄せられて、隙間がなくなった。
顔から火が出るんじゃないかって思うぐらい熱くて、恥ずかしい。
合わさった身体は暖かくて男らしい。服の上からでこんな感触なら生って……いやいや!ありえない!
何故か動悸が激しいし、心臓が高鳴って変だ。僕はどうしてしまったんだろう。
身動きも取れず、逃げ場のないこの状況。
僕は仕方なく、顔だけでも隠そうとアイツの胸に顔を埋めた。
「泪くん」
「は、何?」
「かーわいい」
「っ!うるさい!」
別に嬉しくないし!可愛いとか!気のせい!
ますます熱くなった顔をより押し付けた。
アイツの手が慰める様に頭に乗せられる。
だけど、さっきも思った。ウィッグの上からだとあまり心地よくない。
てか、そう言えば僕まだ女装したまんまだった。今コイツの上にいる僕は、女の子。アイツが可愛いって言ったのも女の子だからであって……女の子……
「泪、顔上げて」
「……何で」
「化粧落とすから」
「え…」
モヤモヤした心を見透かされたように、投下された言葉。
パッと顔を上げると、アイツは可笑しそう口角を上げた。
「顔真っ赤」
「熱いからだ!」
「はいはい。そういうことにしといてあげるから、顔動かさないでじっとして」
アイツは美紗希さんの化粧道具の中から、化粧を落とすシートを取り出した。CMで見たことがある、オイルが染み込んでいて、出して拭けばいいだけってやつだ。
それを手に持って顔に当てられる。
「ちょ、自分で出来る」
「大人しくしてろ。目、瞑って」
僕を無視して拭き始めた優しい手つきは案外気持ちが良くて、言う通りに目を瞑った。
丁寧に拭き取られた化粧。化けの皮が剥がれた気分で、すごくスッキリした。
それから邪魔だったウィッグも外され、頭がスースーする。へたーっとなった髪をアイツがふわふわと跳ねさせ元通りの天音泪へとなった。
「こっちの方がしっくりくるな、やっぱ」
1度僕の顔を確認して満足したのか、アイツの手は再び背中に回された。
そして沈黙。
「………あの」
こんなただ抱き合ってるの耐えられない!
「いつまでこうしてるの?」
「んーいつまでだろう?」
「いや…僕が聞いてるんだけど…。ねぇもう降りていいでしょ」
言いながら降りようとする僕をアイツはさらにギュッと引き寄せた。
「まだダメ。あともう1個お願いするから」
「…何?早くして」
含み笑いのその顔は良からぬことを考えているに違いない。
アイツは僕の催促を無視してたっぷり間を取ってから
「キスしてよ」
そう言った。
「ふーん。キスね。はいは……あ?」
キス…?キ……す。
「は!?意味分かんね!」
驚愕のあまり数秒間トリップしていた僕は我に返り、身の危機を感じて暴れる。
このまま腕の中にいたら死ぬ!死ぬ!
「キスだよ、キス。ほら早く。キスしたら降りていいから」
「むりむりむり!出来るわけないだろ!」
いくら暴れてもその腕が解かれることは無く、むしろ強くなった気がする。
その間アイツは妙に顔を近ずけて喋ってくる。吐息を感じるほどの距離だ。ありえない。
「どうして?何回かすでにしてるだろ?」
「それとこれとはっ…違う…し、唇切れてるのに…」
『何回か』のキスを一瞬思い浮かべてからの目の前の顔は刺激が強過ぎて、目眩がしそうだ。
だからキスが出来ない理由をアイツの唇の傷にしてしまった…『気持ち悪い』の一つも思い浮かばなかったから。
「だからだろ?キスしたら早く治るよ」
「は?ばっかじゃないの?」
「馬鹿で結構だからさ、キス。これで責任はチャラ」
おどけた様に言うくせに、逃がすつもりはないんだろ。 ここで責任という言葉を使うのは本当に卑怯だ。
だって…このキスは僕の意思じゃないって言い訳が出来る。責任のせいだって言える。アイツに強要されたって言える。
ゴチャゴチャするめんどくさい感情を一掃できる。
「泪。お願い」
僕の迷いを奪い去ってしまうほどに甘く深い囁きにゾクリと背筋が震えた。
綺麗な顔に似合わない痛々しいその唇。
「目……見んな」
「仕方ないなぁ」
目をつぶってキスを待つ無防備な顔。
これは責任のせい…。その傷を負わせた代償。
──本当にそれだけ?
そっとアイツの唇に顔を寄せ、触れるか触れないか、まるで羽のように柔らかいキスをした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
35 / 123