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王道転校生君からの逃げ方 side椿
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* side 椿 *
「諄っ?そんなに急いでどうしたんだ?あっ、もしかして俺に逢いにきたのか?」
僕が名前を呼んだ事により諄の存在に気が付いた転校生君が、諄に無邪気に笑いかける。
その口調から、転校生君は諄が自分に逢いに来たのだと本当に思っているのだろうという事が分かる。
けれど僕としては諄が転校生君に逢いに来たなんて是非とも訂正してもらいたい所だ。
だけど、転校生君は自分の都合の良い話以外絶対聞かないからいちいち言わないけど…けれど言えない代わりに僕の表情(かお)がむっとしてしまうのは仕方がないと思う。
けれどむっとした表情(かお)の僕とは違い、転校生君の呼びかけを完全に無視した諄は無表情のまま僕達の方に近づき目の前に止まると、冷たい口調で転校生君に言う。
「鮎川、椿を離せ。」
その言葉に僕自身が転校生君に抱きしめられている状況だったのを思い出し、転校生君から逃げ出そうと慌てて身をよじった。
けれど逃げ出そうとしている事に気が付いた転校生君は抱きしめる手にさらに力を込め僕を抑え込む。
「駄目なんだぞ諄っ!俺が椿を抱きしめてるのを見るのが嫌だからってそんなこといったら!!それに俺の事は光って呼べっていってるだろ!!」
転校生君の言葉に諄は眉を寄せる。
どうやら諄も転校生君の言葉に大分苛立っているらしい、けれど風紀副委員長としての立場から怒りに身を任せるのを我慢しているみたいだ…と思ったら諄は小さく笑った。
「…確かに、見るのは嫌だな」
「言わなくても俺はわかっ…」
「けど正確には抱きしめられている椿を見るのが嫌なんだがな?俺の恋人が他の男に抱きしめられているなんて胸糞悪い」
「えっ…恋人…?」
「知らなかったのか?俺と椿は付き合ってるんだ」
なにいってるんだよ?転校生君はその話が本当なのか確かめる様に僕に目線を移してきた。
僕はそれに対し頷き、転校生君が怒らない様に言葉を選びながら答える。
「えぇ、光君。先程言っていた僕の恋人は諄なんです」
「諄が…椿の恋人」
「光君には紹介しようと思っていたのですか…中々タイミングが無くて」
本当の所はタイミングじゃなくて転校生君が問題を起こして諄が忙しくなったからが正解なのだが、(いや、そもそも転校生君が僕に絡まなければ話す気も無かったのだが)あえてここは話さないでおく。
「けど!椿は諄に脅されて仕方なく付き合ってるんだろ!さっきそういったじゃないか!!」
「えっ、いえ…」
そんな事一言も言ってないんですけど。
小さく首を振りながら諄をみれば、分かってると言う様に小さく頷いた。
「何を言ってるんだ鮎川。俺と椿は相思相愛。互いに愛しあってるぞ?」
「嘘だっ!!だってそれなら椿が俺を選ばないなんておかしいっ!きっと椿は諄に無理やり告白されて、それで断れなかったから仕方なくなんだっ!!」
「最初に告白して来たのは椿からだぞ?」
「えっ!?」
「俺は最初椿の事を恋愛感情(そういう意味で)では好きじゃなかったから告白は断ったんだ。けどそれから友人として椿と一緒に過ごす内にいつの間にか俺も好きになって…それから付き合う事にしたんだ。なぁ椿?」
「えぇ…」
確かに告白は僕からした。
ずっと憧れていた諄に勇気を出して告白して、でも断られて。
けど、どうしても諦めきれなったから友人にしてと頼んで、そして諄と過ごしていく内にさらに好きになって、そして…諄も僕を好きだと言ってくれて…。
確かに諄が言っている事は事実なのだけれど別にここで言わなくてもいいのに…きっと今の僕の顔は赤いのだろうな、自覚しつつ諄を軽く睨むとクスッと笑われた。
むぅ。
「まぁ、どうでもいい話なんだがな。さて鮎川、これは風紀委員副委員長としての言葉だ、椿を離せ。」
けれど自分の言葉を無視されさらには拒否されたのが悔しかったのか、転校生君は顔を真っ赤にして諄を睨みつけると僕の体を痛いくらいに強く抱きしめて大声で叫んだ。
「嫌だっ!!」
「いつっ…」
転校生君の予想以上の力に僕は痛みのあまりに声が上げた。
その瞬間、転校生君が悲鳴をあげるのが聞こえるのと同時に僕は諄の腕の中にいた。
そして間を置かずに転校生君が軽く後ろに吹き飛ぶ。
「…―――えっ」
「椿、大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫。」
あっという間の出来事に驚いたまま僕は見上げる様に顔をあげると、ほっと息を吐く諄と目線が合う。
久し振りに見る恋人の顔の目の下には隈があって。
まぁ、あってもイケメンなのは変わらないのだが…それが出来た原因の一つが僕だと思うと…転校生君に絡まれた程度の事で諄の手を借りてしまう弱い自分が、悔しい。
「諄…」
「来るのが遅くなってごめんな」
(僕もごめん、僕がもっと強かったら諄に苦労を掛けないですむのに)
けれど僕は何も言わずにただ首を振り諄にもたれかかる様にして甘えると、諄は僕を優しく抱き締めてくれた。
その抱きしめ方は転校生君とは全然違って、優しく包みこむ様な抱擁。
「…来てくれて、ありがとう…」
「はいっ、そこまで」
転校生君が叫びを遮る様に手を打つ音と共に栄樹風紀委員長ののんびりとした声が響いた。
「はいはい、そこのお三方、そこ動かないでね」
「ここは今から風紀が預かりま~す☆あ、もう預かってるか?」
そしてそれに続いて同じく風紀委員の凪世君が場にそぐわない様なにこやかな笑顔でこちらに向かってきた。
「ちょっと副いんちょー、問題児を止めるつもりなら最後までちゃんと止めてくれないと、中途半端っていうのが一番困るんですよ~っていうか俺達の事ちょっと忘れてませんでした~?」
「忘れてなんかないさ。それよりも俺に止めろと言う前にもっと早く声をかけてくれれば良かったのに」
「だって~副いいんちょーのカッコいい所を恋人さんは邪魔されたくないだ「伶っ!!聞いてくれよっ!」…ろうなって思いまして~」
気が利くでしょ、俺?にゃははと楽しそうに笑う凪世君にまったくと諄は若干呆れながらも苦笑を返す。
…というより凪世君たら凄い。あの転校生君の言葉を無視して話を続けてる。
しかも先程の良い笑顔のままで何も聞こえなかったかの様に…本当に凄い。
僕も強くなる為には凪世君の様な強さを見習わなくてはいけないな。
今度その強さを習うために二人っきりで凪世と話をする事を密かに誓った椿であった。
「おい、無視するなよ!」
一方、今まで自分中心に回っていたのにここにきて無視されっぱなしの転校生君は、慌てながらもいつものお決まりのセリフを言って皆の気を引こうとするのだが…誰も聞いてくれない。
悲しみのせいか又は悔しさのせいか震えるだす転校生君の肩。
すると労わる様に栄樹委員長がそっと手を置いた。
「聞いてるよ、鮎川光君。でもここで話すのもなんだから場所を移そうか?」
「場所…?」
「そうだよ、光君には色々と聞かないといけない事があるからね?」
「晴嵐…」
涙を浮かべる転校生君に優しげな表情で栄樹風紀委員長は微笑んだ。
栄樹風紀委員長の微笑みにつられてか、又は誰かがやっと自分を見てくれたからかなのか、転校生君の表情も少しだけ嬉しそうな表情になっていく。と、その時。
いきなりガシャッと鈍い音が響いた。
見れば栄樹風紀委員長がさらににこっと笑みを浮かべながら転校生君の手にて…手錠をかけていたのだ。
本当に手錠かって?そう、本当に火曜サスペンスとかで警察が犯人に使用している手錠なのです。っていうか、なんで手錠なんか持ってるの?もしかして…風紀委員は手錠を携帯する事が義務付けされているのだろうか?
ちらりと諄の反応を見れば、別に驚く事も無く平然とした様子で手錠をかけた栄樹風紀委員長を見ている。
…後で機会があれば聞いてみようかな。と思った椿であった。
一方手錠をかけられた転校生君は、自分の手を見て、
「なっ、なんだよこれ!!」
と力の限り叫んで、手錠を外そうとしていた。
その様子を栄樹委員長がウキウキと楽しそうな表情で、
「いやー良かったよ。器物破損、暴力行為及びその他色々について、君とそろそろ話し合わなければいけないと思ってたんだ。えっ、なんでかって?だって君の罰則を決めないといけないからだよ。」
「いいんちょーが一人のりツッコミしてる~」
「うぅ、しょっ、しょうがないじゃんっ!だって伶キュンが夫婦漫才してくれないんだもんっ!!」
「いいんちょーと漫才やれば宝くじで3億円あ「おい、晴嵐、にこんな物友達にしちゃいけないんだぞ!!それと伶もっむがががぁぁ」…当たるって言われても絶対するわけないじゃないですか~。それといいんちょーが、もんっ!!とかちょっときも~い☆あ、あと鮎川光はうるさいぞ☆さっきも俺の話を遮ってさ~いい度胸だよね~?」
どうやら凪世君も転校生君に口を挟まれるのにムカついていたみたいだ(…その気持ちは良く分かる)
にっこりと可愛らしく笑うと、転校生君の口を塞いでいる手に力をいれて始めて…あれ?なんか転校生君の顔が段々と青白く…なってる、かも?
(もしかして息ができないんじゃぁ…)
転校生君の様子を見てちょっと焦る僕に気が付き、見かねた諄が凪世君にため息をつく。
「凪世。気持ちは分かるがこいつも一応はここの生徒だ(殺人は駄目だぞ)」
「…は~い(殺人未遂ならいいと思うんだけどなぁ?)」
「………悪いな(…我慢しろ)」
う~と頬を膨らませ拗ねながらも諄に言われた通りに転入生君の口からどかした手をぶらぶらと振る凪世君に、諄は苦笑をする。
ちなみに、転校生君気絶していた。
「いいですよ~じゃぁ、副いいんちょーは恋人さんの事お願いしますね~。処理は俺達がしときますから」
「あぁ、頼む」
「りょーかいしました~。じゃぁ…」
「あ、あの!!」
「ん?」
「お忙しい所、僕のせいでご迷惑をおかけ致しました」
僕は諄に寄りかかってた体を正し、栄樹委員長と凪世君、そしてその他の風紀委員や生徒達に丁寧に頭を下げる。
それに対して栄樹委員長は軽く平気だよと答え、凪世君は何かを考える様に僕を見つめて困った様に笑った。
「あのさぁ、恋人さん?何か勘違いしてるのかもだけど、ご迷惑をかけられるのが俺らの仕事なのですよ~?だから風紀委員(おれたち)に謝るのは違うのですよ~。まぁ、どうしても謝りたいんだったら俺達じゃなくて副いいんちょーに謝った方がいいんじゃなぁいですかね?」
「えっ?」
「凪世っ!」
咎める様に凪世君の名を呼ぶ諄に、クスリと栄樹委員長が小さく笑った。
けれど名を呼ばれた凪世君は気にせず僕に言葉を続ける。
「恋人さんの気持ちも分かるんですけどね~?…恋人だと言うのに恋人に相談してもらえないって…ちょっと悲しくない?たとえば、今回の立場が逆だったら…恋人さんだったらどう思うかな~」
「それは…」
僕だったら、悲しいと思う。
諄に相談されない自分に対して悔しくて、そして何も力になれない事に対して
「それとさ、恋人さんは…」
「凪世、いい加減にっ…」
「…はいはい、分かりましたよ~。まぁ、そういう事も含めて色々お話した方がいいんじゃないんですか?」
ねっ?と可愛らしく首を傾げる凪世君に僕は感謝の気持ちを込めて頷いた。
やっぱり、一度凪世君とじっくりと話してみたい。
僕と凪世君の会話が終わったのを見計らった栄樹風紀委員長は、スキップしながら凪世君に近寄る
「じゃぁ、さっさと連れて行っちゃおうか。二人で♡」
セリフにハートマークを付け、首を傾げながら手を組む栄樹風紀委員長を見て、ちょっと寒気がしたのはここだけの話。
けれど凪世君はさして気にならなかったのか、にっこりと栄樹風紀委員長を笑いかけると、手に持っていた青白い顔をしてぐったりとしている転校生君を無造作に押し付けた。
「そいですね~じゃぁ、問題児(これ)お願いできますか~?」
「勿論だよ!!任せて任せて!!」
凪世君の笑顔にうっとりとしつつ、転校生君を受け取った栄樹委員長は、上機嫌だ。
「わ~ありがとうございます。あ、ひらっち!!いいんちょーが鮎川光を二人で♡連れて行きたいんだって~悪いけど行ってくれる~?」
凪世の言葉に、うすっと野太い声と共にがたいの良い生徒が出てきた。…どうやら彼がひらっちの様だ。
しかし、ひらっちを見た栄樹風紀委員長は一瞬固まると、慌て始めた。
「え、いや、あのね怜キュン?俺は平塚君じゃなくて怜キュンと一緒っていう意味で…」
「二人で♡連れて行きたいんですですよね~?だから頼もしいひらっちを呼んであげたんですよ?」
「いや、でもね怜キュン。俺はだーい好きな怜キュンと一緒に行きたくて…」
「え~、俺の事は好きで、ひらっちの事は好きじゃないんですか~」
「えっ、そうじゃないよ!!平塚君は風紀の仲間として好きだよ!」
「じゃぁ、いいじゃないですか。ひらっちも俺も風紀の仲間なんですから~」
「う、そうだけど、そうじゃなくて、怜キュンは…」
「ちゃぁんと反省室に入れてきて下さいね?」
「……あい」
にっこりと笑う凪世君の言葉に栄樹風紀委員長は渋々と頷くと、転校生君をひらっちに預けて渋々と廊下を歩き出した。
「はい、じゃぁ、解散してくださ~い☆」
渋々と歩き出した栄樹風委員長を見送りつつ、凪世は辺りにいる生徒達を解散させていく。
「凪世君……」
本当に凄い人だ。
凪世君や他の風紀委員のおかげで、先程まで集まっていた人達が疎らになり、いつもの風景に戻っていく。
そして僕も、心配してくれたクラスメートや親衛隊の人達にお礼を言いながら諄と二人で寮へと戻っていた。
本当は部活に行く予定だったけど、久々に会えた諄と別れたくないから部活に行くのは止めにしてしまったのだ。
明日は行って展示会に出展する絵をしあげないと…、と思っていると、突然諄が立ち止まった。
「?どうしたの、諄?」
「なぁ、椿。」
「なあに?」
立ち止まった諄に僕も同じ様に止まって呼びかけに答えれば、諄はそっと僕の手を握った。
「俺達、ちょっと話をしないといけないかもな」
「…そうだね。僕も諄と話がしたいな」
諄の手をぎゅっと握り返す。
すると諄がほっと微笑んだ。
「今日は早く帰ってこれる…?」
「あぁ、処理は全部凪世を通して栄樹先輩に押し付けて帰ってくるよ」
「本当?でもそんな事したら怒られない?」
とは言いつつも、今日の二人を見ればその光景が目に浮かんだ。
あまりの面白さに僕はくすりと笑う。
「凪世だからな、大丈夫さ」
栄樹先輩(あの人)は凪世に弱いからな。
そう言いながら、諄は手をつないだまま再び歩き出した。
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