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しばらく、俺達は黙々と料理を口に運んだ。
テーブルの上の料理は多く、平らげるのに一苦労したが、そこは育ち盛りの高校生、なんとか残すことなく料理を全てきれいに食べてしまった。
「マサト君、チャンスの神様のお話って知ってる?」
「チャンスの神様?」
初めて聞くその言葉に、俺は首を傾げる。
「そっ、チャンスの神様。実はこの神様ハゲてらっしゃる。後頭部がツルツルで前髪だけしかない。だから、通り過ぎてしまったあとはチャンスを掴めない。チャンスは・・・好機はすぐに掴まなければ後からは掴めないってお話だよ」
あぁ、そうか・・・。
「俺に、大会のモデルをさせてもらえませんか?」
これは、チャンスなのかも知れない。
自分の人生、将来を見つめ直すチャンスで、興味を惹かれる美容師という職業を身近に感じることの出来るであろうチャンス・・・。
後悔のない人生を、自分で選択し歩んでいくための・・・。
たかだか塾のテストがなんだというのだ。
それが、俺のこれからの人生を左右するかもしれない出来事よりも重要であるはずがない。
「ふふ。俺、若い子をたぶらかして悪い道に引きずり込んでる気分だ」
「そんなことっ」
慌てて頭を振り、否定する俺に、
「だって、真面目なマサト君が塾をサボる後押しをしてるみたいじゃない。けど、凄く幸せだな。『大会で君をモデルにカットしたい』って俺の願いは叶いそうだ」
と、良人さんは心底嬉しそうに笑ってくれた。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。君を会場で一番格好良くするために、俺の全力を尽くしたいと思います」
・・・そこから、他愛のない話をした。
時間はあっという間に過ぎ、良人さんは『申し訳ないから』と遠慮する俺を家の近くまで送ってくれた。
時刻は、もうすぐ夜の9時となる。
約束どおり、俺を9時までに家へ帰してくれた。
俺は、色のないつまらない世界が変わっていく気配を感じた。
どきどきと心臓が脈打ち、心がそわそわと落ち着かない。
これが、期待に胸を高鳴らせるという感覚だと気付くのに、時間がかかった。
なにせこんなに気分が高揚したことなど、今までにないのだ。
その夜、俺はまるで遠足前の子供のようになかなか寝付くことが出来なかった。
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