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-20- 鳳 清四郎
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「あ、会長」
職員室を出てすぐ、学園でツートップに入る問題児の間宮と出会した。ちなみにもう一人は言わずもがな、上野のことである。しかし、間宮要は上野より遥かに素行が悪い。間宮が学園で淫行に及んでいるところを何度目撃したことだろうか。
「放課後だからと言って羽目を外し過ぎるなよ。まっすぐに帰宅しろ。お前は特に、だ」
「はぁい、善処しまぁす」
それは了解したとは言っていないという意味か。相変わらず、間宮のふざけた態度はいつまで経っても治らない。間宮といい上野といい、この二人だけは。
どれだけこちらが口を酸っぱく言っても馬の耳に念仏だ。
生徒会の仕事も残っていることだし、いつまでも間宮の相手をしていられない。間宮との接触もそこそこに早々と去ろうとする。
「ねぇ、会長」
「……なんだ」
引き止めるように声が掛かった。忙しいんだが、と眉を寄せて振り返るが、間宮はこちらの様子など全く考慮していない様子である。
「エマ、テストで一位取るんだって張り切ってるよ」
まるで世間話をするかのように、何気なく。しかし、大したことない風に装って、その実こちらの内情を探っている。間宮は利口で目敏い。少しの動揺も、決して見逃しはしない。
そういうところ、あいつと似ている。
「そうか。勤勉なのは良いことだな」
「誰のために頑張ってるんだろうね」
「自分のためだろ」
「あは、そりゃそうか。うん、そうだろうね、自分のために、ね」
意味ありげに含ませながら間宮は笑う。
「エマ、今も教室に残って勉強してるみたい」
「なぜ俺にそれを言う」
「え、なんとなく、だよ? 別に深い意味なんてないよ。俺、もう帰るし。それじゃあ、またね会長」
「あぁ」
今度こそ、間宮が俺の横を過ぎて帰っていく。最後まで人を食ったような笑みを浮かべていた。
ーー気に食わない奴だ。
静かな廊下。間宮の後ろ姿はもう見えなくなっている。俺の足は自然と歩き出していた。やらなければならない仕事は山ほどある。だけど。
教室の扉が解放されて、中の様子が伺える。放課後とあってか、閑静な夕陽差し込む教室に生徒が一人。机に向き合って黙々と細い銀色のシャーペンを滑らせている。教科書をめくりながらブツブツと何か呟いており、よほど集中しているのか教室へ入ったというのに全く気が付いていない。
席まで近付いてようやく察したらしい。僅かに見開かれた薄鈍色の瞳と目が合う。
「会長……」
「随分熱心だな」
「そりゃあ、まぁ」
上野の目の下に薄っすらとクマがあるのが見て取れる。あの宣言通り、努力をしているのは認めるが、上野の普段の成績で全科目総合学年一位なんてあまりに無謀過ぎる。結果なんて目に見えているはずなのに、どうしてそこまで。上野の考えていることは、やはり理解に苦しむ。
「会長」
すっと上野の手が伸び、頬に触れる。心配したような色がそこにあった。
「今日も顔色悪いよ。ちゃんと寝てる?」
「お前の方こそ顔が悪いぞ」
「か、顔が悪い……」
ひく、と引きつった唇。頬にある上野の手に指を絡ませ、その薄く赤い唇に口付けた。こいつはいつも無防備だ。恋人優先主義だとかなんとかのたまってるくせに、こうも隙だらけでどうなんだと思う。
唇を離すと案の定、上野は困ったような顔をしている。そんな顔するぐらいならもっと危機感を持つなり、抵抗すればいいのに。
「会長狡いね。あんた、心の内側を俺に見せてくれないのに、そーゆー接触は平気でしてくるんだから」
狡い、のだろうか。それでもお前ほどではないがな、と言い返すと上野は苦笑を漏らした。頬にあった手が離れる。
「海外に留学するんだってね」
「あぁ」
「いつぐらい?」
「夏休み入るか入らないぐらいには、向こうに住んでいる叔父の家に行く」
「……そっか」
上野の質問に淡々と答える。留学のことは知らずのうちに広まっていることだったし、現に事実だ。隠すようなことでもない。
上野はそのまま口を閉じると、再びシャープペンを握り締めた。
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