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交差する
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職員室でくどくどと先生に怒られた。お前たち、仲がいいのもいいけど勉強しろだのなんだのって、あーうるさいうるさい。ぴしゃり、と職員室のドアを締める。はぁ。二人で盛大なため息。ため息が被ったことに二人で顔を見合わせ、そしてふい、と逸らした。なんどもいう、こいつと二人はなんかちょっと、気まずい。昨日のことを思い出してしまう、こいつの唇の温度、手の平の感触、吐息やまつ毛の長さまで。
ぶんぶんと首を振り、屋上でサボろうとワカメに背を向けると。がしっ、と首根っこを掴まれた。セーターが詰まって苦しい、「ぐぇっ!」なんてダセー声が口から漏れる。ちょっともういい加減にしてくんないかなこのワカメ…!!
「んだよ!!首締まったんだけど!」
「どこいくんだよ、教室逆だろ!」
「ど、こ…いこうが、別に俺の勝手じゃね?そーいうとこマジ無理、うぜぇ!」
「あ?そーかよバーカ!せっかく、…なんでもねぇ。野たれ死ねハナクソ!」
べ、っと舌を出して、ついでに中指まで立ててくるこんなゴミみたいな男のどこに惚れたのか。まじで俺が謎なんだけど。スタスタと教室にむかって歩いて行ってしまうワカメの背中に向けて一度舌打ち、やっぱウゼェ。お前のせいだよ、なにもかも、お前が悪いんだ、俺のカラダを気の済むまで弄りやがって…!
俺よりでかい手が、俺の胸板を撫でるあの感覚、…思い出すな!思い出すな!
気恥ずかしくなって、ボリボリと頭を掻き毟る。気まずいと、あいつのそばに居たくない。それは当然のことだろ、変に意識してすげー触りたくなったらどうすんの?
ここ、学校。俺たち、男のコ。
そりゃ、…男のコ、ですから、エッチなこともしたくなるよな。仕方ない、よな。でも、でも、でも。
ちょっと体弄られただけで、気持ちよく、なっちゃったんだぞ?別にちんこ握られたわけでもなんでもない、ただこの真っ平らな胸とか、凹んでる腹とか、肋や腰の付け根なんかを撫でられただけ。それだけで心臓破裂しそうなぐらい、痛くてさ、緊張して、気持ちよくなっちゃって、なんかまじ…あのままだったらヤバかった。食われてもいいな、って、思っちゃったんだよなぁ。
悶々と考えながら屋上へ繋がる階段を登る。俺はどうしたいんだろう。俺はエッチなことしてぇのかな、アイツと。あいつはキスの先がしたいって言ってたけど、じゃあ俺は?俺もしたいの?
そもそも、キスの先ってなんなの。一緒にみたAVみたいな?あんな、ケツの穴ほじくられて、あんあん言うようなこと?
わかんねーよ、どうしたいのか。…嘘、わかってるけど、いざとなると…躊躇うもんだな。痛そう、恥ずかしい、そんな感情が押し寄せる。でもそれを上回るのは、もっとあいつに触りたいっていう欲求。…触って欲しいっていう、願望。
無理。自分無理。こんな俺無理。
はあ、…ダサいな。ダサくてヘタレで意気地なし、って、いままでなんども振られてきた。怖。…さっき、言い過ぎたかな。「そーいうとこマジ無理、うぜぇ」って言った時、あいつの顔見りゃ良かったな。要らねーことばっか言って、イラつかせて、んでケンカして、またこのサイクル。いい加減、抜けださねぇとな。俺も、お前も。
ぎぃっ、と、古くて重たい屋上の扉を押す。風がキツイ、冷たい、さむい。やっぱ教室戻ろうか、そんでゴメンの印にコーラでも奢って、んで、元通りだ。いつも通り。俺もとりあえずリセットして、明日から本気出せばいい。きゅ、上履きの音を鳴らして屋上を去ろうとすると、タンクの隣に人影をみつけた。
「りょーすけ!」
ぶんぶん、と手を振ってくるのは隣のクラスのミワコちゃん。山下のツテで仲良くなった明るさが取り柄の女の子。顔はぶっちゃけそこまで可愛くない。でもよく笑う奴だ。性格だってさっぱりしてていい、女友達としてはサイコー。そんなミワコちゃんの隣に座っていたのは、見慣れた金髪、へんな髪のチビ。うわ、この二人の組み合わせとか珍しい。
「二人してサボり??やーらーしー」
古賀の気持ちを知ってるからこそ、ここぞとばかりにわざと茶化すようなことを言うとかさぁ、俺って性格悪いかも。あーさむいさむい。二人が背もたれにしてるタンクはちょうど風よけになっていて、屋上の入り口よりかは寒くなかった。ズボンのポケットに手を入れたまま、ちょっとテンション高めに二人に近づくと、にんまり笑ったミワコちゃんと、ちょっと苦笑気味の古賀ちゃん。なんだよ、ちょっと身構えちゃうだろ…!
「涼介、ちょうどいいとこにきてくれたー!今さ、二人で恋バナしてたの。」
「恋バナ!ははっ、古賀ちゃーん?俺そんなのお前の口から一回も聞いたことないんだけど?」
「松に相談してもエセチャラ男の意見なんて参考にできないさ?」
かちり。ライターの音。古賀ちゃんがタバコに火をつけた、音。
女いんのに無視かよ古賀ちゃん。すげー思い切りいいね?だから顔はいいのにそんなにモテないんだつっーの。古賀ちゃんの視線が、首筋に刺さる。その視線に気づかないフリ、俺の視線は古賀ちゃんの持ってるタバコに。恋くんも、宮内さんも吸ってるそれ、赤い箱、メジャー中のメジャー、マルボロ。古賀ちゃん、似合わねーなぁ、タバコ。
「あのさ、あんた柳くんと仲良いよね?」
ミワコちゃんは特にタバコの煙を気にすることもなく、なぜかあのクソワカメの話題を振って来た。古賀ちゃんはちょっと慌てた顔をして、ミワコちゃんを小突く。ていうか俺、あのワカメと仲良しに見えてんの?うっわー、すげー複雑。
「良くねーよ!毎日ケンカばっかだって!」
当たり障りのない返事をするとミワコちゃんはチークの塗られた頬をさらに赤く染めた。
あ。
この話題、ダメなやつだ。
気づいたときには一歩遅い。女の子は話し始めると止まらない。前にも言った気がするけど、あのワカメ…影でモテる。ミワコちゃんもそうだったんだ、しくじった。あんまり聞きたくねぇけど、小さい口は動くのを止めない。古賀ちゃん、なんでそんな慌ててんの。もしかして、もしかして。
「柳くんってどういう子がタイプかなぁ。ミワ、本気で好きなんだ」
女の子はいいな。男をすきっていっても可愛いって一言で済むんだから。俺は口角を上げる。いつも通り、を、装うのは得意だから。
「趣味悪っ!知らねぇよ?あいつの好みなんて興味ねぇし。ゲームの女に夢中だろあいつは。」
「嘘ー、最近柳くん、雰囲気柔らかくなったよね。話しかけやすくなったし、もしかして好きな人いるのかな」
「いやいや知らねーって!でもミワコちゃんがあいつ狙いって意外だね?俺にしとけば?」
「涼介チャラいからやだ?。柳くん、絶対つきあったら大事にしてくれるよー」
大事に?大事にってなんだろ、仮にも恋人の俺の机の脚は蹴るわ噛むわ暴言は吐くわ、アレが大事にしてる態度っていうならどうかしてる。ぐるぐる、ぐるぐる、またこの感じだ。…嫌だな、嫉妬なんかしたことなかったのに。なんか、嫌だな。
「ミーワちゃん、柳はコミュ症もいいとこさ?やめとけってさっきも言ったのに効かねーなー」
「恋なんてね!やめろっていわれてやめれたら、こんなに苦しくないんだよ!」
ぐさり、と心臓に刺さる言葉。うん、その通りだ。あいつを好きだと思うのをやめたい、やめたいわ俺だって。だんだん馬鹿になっていくのが自分でもわかるから。でも、やめれないから恋だ。…あいつに、恋をしてるのは俺だけじゃない。素直に嫉妬もできないようなこんな男が、あのワカメに独占欲丸出しで恋されてるだなんて、やっぱどうかしてるよ。でも、手放さない。あいつが自らいなくなるまで、絶対に。むかつくじゃん、だってさ。むかつくもん。お前ばっかり苦しいんじゃねーんだよって、教えてやりたいんだよ。
「笑顔。」
「え?」
「あいつは多分、笑顔に弱いよ。コミュ障だから。だから…ミワコちゃんはいつも通り笑ってりゃ魅力的なんじゃね?」
予防線張る俺、ずるいなぁ。
いつも通りなんて、それ以上踏み込むなって言ってるようなもんなのに。滲み出る独占欲、気持ち悪。ため息が出そうになるのを飲み込む。ミワコちゃんが「そうかなぁ?」といいながらキャッキャとしているのが、とても可愛く見えた。俺と大違い。
「松。おしっこついてきて」
「はぁ?一人で行ってくださーい」
「いいから。俺のちんこ見てほしいさ」
「ちょっ!ははっ、何言ってんの?ミワコちゃんの顔見ろよ、ドン引き!しゃーねぇなぁ、ゴメンなミワコちゃん、俺たち行くわ」
「うん、大丈夫、古賀がデリカシーのカケラもないのは分かってることだから。ミワも友達くるし、行っていいよ」
小さく手を振ってくるミワコちゃん、ごめん。ごめん。あいつはミワコちゃんに惚れたりしない。あいつは俺しか見ない、これから先、そうなるように俺が頑張っちゃうから。
それから俺の手をひく古賀、ありがとう。…ごめん。
バタンと重い屋上の扉を締める。古賀は無言、俺も無言。すたすたと歩くのは、トイレとは逆方向。
「古賀ちゃん、おしっこは?」
「嘘。もう一服付き合ってよ、どうせ今から授業行っても遅刻さ」
「…空気読めてんのか読めてねーのなビミョーだな、相変わらず」
「はは、んな顔しといてよく言う」
裏庭に向かう、その途中に言われたその言葉で、確信した。
古賀ちゃん、俺とワカメの関係知ってんだな。知ってっからこそ、優しいんだ。
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