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tea for 2
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「ホワイトデーに、マダコっすか?」
《書店王子》こと堀江は、一瞬まん丸くした目を細めた後、クスクス笑い出した。
「そうなんよ。しかも、わざわざ生のをクール便でよ?ひどいやろ!?」
小声ながらも莉緒が勢いよく捲し立てると、堀江は真顔になってこう言った。
「いや。出張先とかからなら、アリかもなーって。それに、悠真くん、喜んだんじゃないですか?」
「そない言われてみれば、そうやけどな。」
確かに、ちょうど生き物図鑑がブームの息子は、大喜びだったし。
煮ても、焼いても、とにかく美味しかった。
「もしかしたら、ホワイトデーは、関係無かったのかも、ですけど。家族想いの良い旦那さんじゃないですか。」
「そうなんかしらねぇ…。」
首を傾げる莉緒に、堀江はこう訊いた。
「だったら、和泉さんは何が欲しかったんですか?」
「えっ!?」
一瞬、戸惑って、そして気付いた。
結婚して以来、自分の欲しい物は、ずっと後回しだったことに。
息子が生まれてからは、夫にもそうするよう、無意識に強いていたのかもしれない。
―当たり前やて思ってたけど。
されてみると、意外に腹が立つもんやなぁ…。
あの人も、ずっとこんな気持ちやったんやろか?
少しずつ、胸がざわつき始めた。
「ホワイトデーなんやし。甘いもんやったら、何でもええわ。」
投げやりなその答えに、堀江がまたツッコんだ。
「何でも良い?本当に?」
こちらを見る若者の中に、一瞬あの男を見たような気がした。
―なんで。そんなこと、言うんよ?
アンタなんか、赤の他人のクセにっ!
「あ。ゴメン。まだこの後、用事あるんやったわ。」
そそくさと立ち去ろうとする莉緒に、堀江は小さなメモを渡した。
「僕のアドレスです。気が向いたら、メール下さい。」
「メル友なんか、ならへんよ。」
「だったら、今度お茶しましょう。」
―お茶?
それって、どういうアレなん?
単なる、好奇心?
その見た目で、中身は噂好きなオバチャンなんか!?
タップリ30秒は、マジマジと堀江を見てしまった。
「アンタなぁ…こんなオバチャンからかって、何が愉しいの?」
「いえ、僕はただ、和泉さんに――――って貰えたらなって…」
「ふざけんといてや!!」
莉緒は、ママチャリに飛び乗ると、一目散に我が家へと逃げ帰った。
―なんやの一体、あの子はなんのつもりやの!?
ゆとり世代かっ??
その夜、莉緒はなかなか寝付けなかった。
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