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今にも泣きそうな顔が、目の前にあった。
「ね......一生消えない跡を付けて......」
「どうしたの、雅ちゃん、なんかあった?」
顔を覗きこんでも、首を横に振るばかりだった。雅のことは、よくわからない。女王様な姿は偽りで、本当は優しくて脆いのは知っている。本当の気持ちを伝えるのが苦手で、でも俺は、雅が何を伝えたいのかまでは察することができない。それとも、俺の都合よく解釈していいのだろうか。
「彰吾......ずっと側にいて」
「うん。雅ちゃんにどっか行けって言われても、すがり付くよ、俺」
「みんな......俺なんかの何がいいんだろ......俺は、みんな傷つけてばっかなのに」
「そんなことない......雅ちゃんが優しいのは、俺も、蓬莱さんも、東雲さんも知ってる」
「俺、彰吾のこと好きじゃないのに彰吾と付き合ってても、彰吾は俺の側にいてくれんの?」
「俺が愛してるから、いいんだよ」
「彰吾は......ほんとバカだよね......ほんと......そういうところ......好き」
切なそうに眉を寄せながら、けれども優しい瞳で微笑みを浮かべた顔は、今まで見た雅の中で一番自然で綺麗だった。
「こんなはずじゃなかったのに......彰吾、ね、彰吾......」
甘い声で俺の名前を呼びながらキスをしてくる姿に目が離せない。自分の心臓が未だかつてないくらいにドキドキして、愛しさで胸がつぶれそうだった。
「俺、彰吾が好き......ねぇ、彰吾、俺のこと彰吾でいっぱいにして......もう何も考えたくない。蓬莱さんのことも、龍弥のことも、誰のことも考えたくない......」
「うん」
いつだって冷静な雅が、頭を抱えて絞り出すような声でそう言った。弟への許されない愛と、40も歳上の男からの求愛。その狭間で、不安定な雅の心が悲鳴をあげているようだった。
「彰吾がいればいい。ねぇ、俺、彰吾のこと傷つけてる。俺ね、彰吾のこと利用してる。彰吾のこと一番に愛してないのに、ねぇ......っ」
「俺のこと好き?」
「ん......好き、彰吾の側、落ち着く。だから......」
「それで充分。俺のこと利用して。雅ちゃんに利用されるなら本望だよ」
「どうして、どうしてそんなに優しいの」
「愛してるから。誰よりも、自分よりも雅ちゃんが大切で愛してるから」
「彰吾......っ」
俺を利用して、俺のことだけを考えるようになればいい。俺はこの孤独な女王に、一生付き従う従者だ。でも、願わくばその心を温めて、悲しみや辛さから守ってあげられるようなナイトになりたいと思う。
「抱いて......ねぇ、お願い......」
細すぎる体を抱きしめて、そっとベッドに押し倒す。静かに閉じられた瞼に口付ければ、長い睫毛が震えて濡れた。
「愛してる......愛してる、雅」
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