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三十八
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「それは私の情けだよ。今までの働きにたいしての感謝かな。」
チャウはオズオズと手を伸ばしピルケースをつまみあげると蓋をあけた。
中には青いカプセルが二錠。
引き攣った顔のあちこちがピクピクと痙攣している。
いっきに噴きだした汗を見ればわかる、そのカプセルが毒であることを察したのだろう。
「長年のピンハネに我慢できなくなった、そんなケチなことではない。お前が黙って分け前を攫っていたのを知らないとでも?あんなはした金で満足しているのなら可愛いものだと見逃してきたよ。日頃迷惑をかけているコンサルティング料金と思えば安いものだ。」
チャウの目から光がいっさい消えた。本気で私が知らないとでも?おめでたい。
「お前は私の事すべてを管理しているつもりだろうが、一部にすぎない事を教えておこう。
一部だよ、かすめていたのは、その中のさらに一部だ。
私が何に怒っていると思う?
お前はいったい何ということをしてくれたのだ。大龍に告げ口するとは、随分大胆だな。」
「なっ!」
「兎がそんなに気に入らないか?別にお前がアレを毛嫌いしようが関係のないことだ。兎が私にもたらす幸運。それを私自らの手で守るだけの事、手放すつもりはない。
それなのに、一歩間違えば失うところだったわけだ。あまりに近しい関係者に裏切られるというのは滑稽さがあると思わないか?」
「仰る・・・意味がわ・・・かり・・かねます。」
「別にお前がわからなくて結構。言いたいことだけ言わせてもらおう。
兎が男で子をなさないからなのか?しかし私はこの生を得るにあたり順番は弟にまわったのは知っているだろう?
大龍として広い国土を照らす身になったものは世継ぎを得ないという決まりになっているじゃないか、私達の一族の血の繋げ方は独特だ。
君臨している人間の弱みとなるから子は作らない。しかし同族のものが血を繋げていく。
満月の血は弟筋が繋いでいるのだから何も問題はない。」
「しかし!貴方様の血を絶やすわけには!」
「弟筋によって守られているよ、父から平等に受け継いだのだから。弟筋がどこで暮らしているのか?それは巧妙に隠されているから凡人に見つけるのは不可能だ。当然お前も探したに違いない。しかし見つからなかった、だから存在しないと考えた・・・。それが凡人だと言うのだよ、そうやって多くの人間が「存在しない」と結論付けることで弟筋は守られる、敵によって。」
「まさか・・・そんな。」
「それに時代が満月を欲しているから私が大龍になったというだけの事。時代と民が煌々と光る月を求め続けるとは限らない。
朧月の柔らかさと存在の危なさを欲するかもしれない。美しい下弦の月かもしれない。
今回は違ったようだが、月ではなくすべてを覆い隠す「霧」を求める時代がくるかもしれない。
現大龍は「陰森」だ。何もかもを飲み込み外から何も見えなくしてしまう、暗い森だ。しかし時代は照らせと言った、闇を受け入れる懐を持つ月が選ばれたのだ。
一族は月の形と同じく様々な「筋」を持ち繋いできたのだよ。いきなり何百年にも渡るしきたりを崩すわけにはいかない、それも「月」でもなんでもない一人の傲慢な男によってなどありえない。
お前は私だけではなく、長年仕えてきた「月」全体に対して反旗をひるがえした。
そうだろう?これでもまだ言われている意味がわからないか?」
「・・・・・・・・・・・。」
「力の横に寄り添っていると、自分が力を持ったと勘違いしてしまうのだろうか。
今回の日本での仕事は香霧の阻止だけではない。大龍がモノを言えなくなるような力の足掛かりをえることだった。
そして偶然兎をみつけたわけだ。
そこからいっきに事が動き始めてね。龍成会や権田が所属している大弘会の会長と商談が成立した。それもすべて兎のおかげじゃないか。
霧をけちらし、新たな宝をもたらせたのだ。
現大龍には先日最後通牒を突き付けてきた。余興好きの強欲者にこれ以上振り回されるのはゴメンだと言ってやったよ。」
「まさか・・・そんな!」
「そんなもクソもない。私は長年ずっと準備していた。次期大龍の地位を欲しいと口にし、他のものが尻込みするような事も随分やってきた。大龍のわがままにも付き合い、屈辱にも耐えた。
その裏で少しずつ牙城を切り崩す作業を続けてきたのだよ。
スプーンの柄で牢獄の壁を少しずつ堀りトンネルになるまで何年も何年も続けた囚人のように。
まさしく今までの私は囚人そのものだった。
そしてそれは終わりを告げた、兎によって。
今頃大龍は自分の蓄えの大部分が消えていることに気が付き大騒ぎしているに違いない。
のらりくらりと遊んで余生を過ごすには充分なものは残してやったがな。」
チャウはワナワナと唇をふるわせカタカタと体が小刻みに揺らしていた。
「月は闇夜に存在するものだよ、チャウ。人は月の光だけを受け取り、光を欲する。しかし月の本質は闇だ、闇があるからこそ光る・・・「月は闇と共に有る」-これが我が一族の格言
闇の支配者を出し抜こうなど、随分勝手をしてくれたな。許すわけにはいかない。
そのカプセルは青酸カリだ。二錠あるので道連れにしたいものを一人選べる。もちろん一人で死んでいくも良し。
カプセルを口にせず逃げるか?それもいいが、当然狩るぞチャウ。そしてお前の縁者は全て根絶やすからそのつもりで。」
「まさか!それだけはお許しを!」
「馬鹿な・・・事を起こす前に考えればわかるだろう?私に刃向うその意味を!」
おいおい泣き続けるチャウを見て思うのは、煩わしい男だ・・・ということだけ。
互いに信用していない者同士、目的も別、価値観も何もかも平行線。父が大龍の座を逃した時から、チャウの目的は歪んだものになったのかもしれない。父に心酔するあまり、その息子の評価は低いままだったのだろうか、生意気な若造だと憎々しげに思っていたのか?
どうでもいい・・・こうなってしまっては何も元にはもどらない。
「地下室で明朝まで過ごせ。道連れを呼ぶなら申し出るがいい。いずれにしても結論をだすように。リミットは明朝。一族もろとも道連れにするのか、一族を救うのか、お前の判断で運命が変わる。」
ドアが静かに開き、先ほど茶を持ってきた男がチャウを引きずり上げて連れて行った。
この場で殺してもよかったが、部屋が汚れる。
それに・・・死ぬとわかって過ごす12時間のほうがよほど堪えるはずだ。簡単に死なせてたまるか。
ヨシキが死んでしまっていたら、こんな程度では済まされない。
私に喧嘩を売るならそれなりの覚悟が必要。
それを今更痛感しても少し遅すぎたようだ、チャウ。
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