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爪跡のついた手を擦りながら俺をチラチラ窺うリカちゃん。横目で睨んだ俺に小さな声で尋ねてくる。
「もし俺がただの教師に戻ったらどうする?」
「ただの…ってお前はただの変態教師だろ」
ムッとしながらも言い返してこないリカちゃんに俺は続けた。
「俺にとってリカちゃんは意地悪で変態な性悪教師。戻るも何もねぇ」
「じゃなくて…欲しいものとか行きたいとことか制限されてもいいかって聞いてんの」
「俺は元から何でも欲しがったりしないし行きたいところなんてほとんど無い。どっかに行くなら家で寝るのを選ぶタイプだ」
言い切った俺にリカちゃんは苦笑した。
「そうだな。お前はそういうところ男っぽいもんな」
「そういうところって何だよ。俺は見た目も中身も男だし」
軽く睨むと何故か頷きが返ってくる。なんだかバカにされてる気もしないでもないけど…とりあえず黙ってリカちゃんを見上げた。
「だからこんなに夢中になったのかもな。ワガママで甘えたのくせして、実は芯がしっかりしてる。下手なりに考えて行動できるお前だから目が離せないのかもしれない」
苦笑いのリカちゃんが今度は指と指を絡めてくる。その手には赤い筋が浮かんでいて、さすがにやり過ぎたかと反省した。
「痛い?」
問いかけた俺にリカちゃんが軽く首を振った。
「いや、大丈夫。これで目が覚めた」
さらに細くなったリカちゃんの指。それでも綺麗なまま整えられてるのはリカちゃんらしい。
特別なことなんかなくてもリカちゃんはリカちゃんで、理想とかはどうでもいい。
理想の人を好きになるよりも、好きな人が理想になる方が幸せなんだと思う…なんて恥ずかしいから言葉にはしないけど。
言葉に出来ない代わりに絡めた指に力を込めると、それに気づいたリカちゃんが俺の手を引く。
「俺さ、余分なもの全部捨ててみようかと思ってる。なんでも欲しがると大切なことまで見失うって実感したし…」
「全部捨てる?そろそろ大掃除だからか?」
「あぁ…うん、まぁそんな感じ」
笑い混じりに答えたリカちゃんが咳払いをし、背筋を伸ばした。視線をそらすことなく俺に真っ直ぐ注いだまま、薄い唇が開く。
「なんでも欲しいものをくれて、好きな所に連れて行ってやるなんてもう言えない。それでも傍にいてほしい……っていうのは勝手すぎるか?」
リカちゃんの欲しい答えは肯定だろう。
けど、ここで俺が「傍にいる」って言えばリカちゃんはこれからも俺の為に無理をする。またリカちゃんの『完璧な俺計画』が遂行されるに決まってる。
だから俺がリカちゃんに答えるのはリカちゃんが欲しい言葉じゃない。
俺がリカちゃんに言いたい言葉だ。
「傍にいるんじゃなくて俺がお前の為に生きてやる。お前が自分を大切にしない分、俺がしてやる。俺が勝手にお前の為に生きてやるって言ってんだから傍にいるもクソもねぇ」
これは俺たちだけの合言葉だ。
お互いがお互いの為に生きる。
リカちゃんと違って俺は子供でまだ何の力も無いけど、でもそんな俺が好きだって言ってくれるリカちゃんの為に。誰かの為に必死になれることは、すげぇ幸せなんだって教えてくれたお前の為に俺は生きる。
「今の俺が言えるのはそれだけ。その意味を言葉にするのは俺にはまだ早いから」
それを簡単に言いたくなかった俺にリカちゃんが微笑んだ。こんなに安心した顔を見たのは久しぶりでドキドキするような、緊張するような…なんだかくすぐったい気分。でもそれも悪くない。
「弱ったな…」
表情とは真逆のことを言ったリカちゃんの声は明るい。
「ここで満点の解答しちゃったら俺の立場ないだろ」
口元を緩めたまま、瞼を閉じて近づいてきたリカちゃんを俺は自分からも迎えに行く。
「慧、おいで」
いつの間にか自然と名前に変わった呼び方。そんな些細なことでやっと元の場所に帰ってこれたんだと実感する。
1秒でも早く触れたくてリカちゃんの首を抱き寄せた。
「2ヵ月、よく頑張ったね慧君」
言葉が耳に入ってくるよりも先に吐息が肌に触れる距離。そんな近くにいるリカちゃんが蕩ける笑顔で俺を呼ぶ。
「ウサギ…慧君………慧」
「リカちゃん、」
「やっと呼べた…本当に長かった」
触れて離れて目が合って笑い合う。
俺の腰に手を回したリカちゃんが服をギュッと掴んだのを感じた。
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