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男娼とヤクザ/シリーズ4(第4話)
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「そう言えば、お前はどうなったん?」
「え………………」
久し振りの外だった。
大和は、自分の所へ来てくれたシュウを見送る為、久し振りに街へ出て行った。
その道すがら、ふと思い出したシュウの周りの事。
最近は、なかなか会う機会がなくて聞けなかったが、今なら聞ける気がした。
自分の恋もぶっちゃけた今なら、同じ娼夫でも別世界に見えたシュウの想い。
「ほら、ずっとお前を慕ってた男………かず……かず、何やったけ?えらい生真面目な感じで、お前の追っかけしてたやろ」
だって、あれは確かに恋してた。
「ああ……………一成」
「そ!その一成!俺よりは年上やろうけど、どっか放っておけん言うか……可愛らしい人やったやん?」
「クス…………お前が、可愛らしいて………」
「何、ええやろ………別にィ…………」
「ま、ええけど…………」
クールビューティに見えたシュウが、一成と言う青年に、恋を。
毎日が生きる事に必死だった大和にとって、それがどれほど輝いて映ったか。
綺麗なシュウが恋をしたら、きっともっと綺麗なのだろう。
大通りへ向かう細い路地を肩を並べながら歩く大和は、一成の話に苦笑いするシュウをチラッと見つめた。
キラキラと太陽の光を浴び、輝くシュウ。
そりゃ、一成じゃなくとも追っかける。
良かった。
嵩原が、シュウに会っていなくて…………。
ちょっとだけ、ホッとしてしまった。
「もう…………2週間は会うてないかな………」
「……………は?」
しかし、モテモテに見えるシュウにだって、悩みはある。
「あいつのなけなしのバイト代を使うのが嫌で、突き放したんや…………今まで以上に」
「今まで以上?…………何言うたんな………」
遠くを見る目に、伝わる寂しさ。
まともな青年を自分の世界に引き込みたくない、シュウの胸の内。
「『お前みたいな安月給じゃ、俺を繋ぎ止めておくのは無理や。定職にも付かへんくせに、俺が買えると思うな』…………て」
「えぇ……………」
「…………最低やろ?それから、パッタリ顔出さへんようなったわ……お前を励ます資格、俺にはないな」
「シュウ……………」
最低やろ。
違う。
本当は、会いたくて仕方がない。
でも、一成の将来をシュウは取ったのだ。
普通に暮らしてれば、明るい未来が開ける青年。
汚れた自分がいる事は許されないと、シュウなりに判断した結果。
「それでええんか?会えへんで、ホンマは寂しいんやないんか…………」
「寂しいて…………どの面下げて言える?俺は、身体を売って生きて来た。汚い事も狂うた事も、金の為にして来たんや……………一成のような、普通に育って来た人間の側になんかおられへんよ」
シュウがどんな想いで身体を売って、どんな事をされ腰を振って来たか、大和には手に取るようにわかった。
自分も同じ。
裏社会に生きる嵩原だからこそ、何もかもを受け止めてくれたが、一成みたいな真っ直ぐな若者にそれをさせるのは、言われてみれば酷だ。
「せやから、お前だけは気張り…………嵩原さんやったら、それが出来るさかい。思い切り甘えたらええ思う」
「……………シュ…」
長い睫毛を瞬かせ、微笑む姿に見惚れてく。
歩んでしまった道の悲しき現実。
こんなにも美しいシュウが、自らの恋を諦める。
何もしてあげられないのか?
元気をもらった。
もらったのに…………。
大和は、上手い言葉も浮かばないまま、手を上げて去っていくシュウをただただ見送った。
賑やかな大通り。
多くの人間が行き交うそこが、今日は一段と別世界に見えた。
「嵩原やったら、何て言うんやろ…………」
と言っても、今の自分が嵩原にそれを訊ねる勇気もなく。
それよりも、自分の方が悩ましい問題を抱えている訳で…………。
「はぁ…………」
大和は、シュウが人混みに消えて行くのを見届けると、溜め息混じりに大きく振り返った。
とりあえず、帰ろう。
そして、もう一度考えよう。
嵩原に、会いに行っていいのかと。
ドンッ……………!
「…………ってぇ!?」
しかし、そんな大和の道は、思いの外簡単に塞がれてしまう。
俯いたまま振り返ったが為に、障害物へ顔面からぶつかった、大和。
「なっ……何や!鼻が潰れる…っ……鼻が潰れるわっ」
赤くなった鼻を押さえ、涙目で痛みを露に騒ぎ出す。
本当に痛かった。
何だ、オイ。
何にぶつかったんや…………!?
「へぇ………お前の鼻は、そないに高かったんか………間近で見とる分には、差ほど思いもせんかったな」
え………………。
天から堕ちて来るような艶っぽい声色。
何度聞いても大好きなその声に、大和の胸はドクンッと激しい鼓動を始め、込み上げる想いに身体は身震いさえ覚える。
「こっ……………」
この声…………っ!!
「一体、お前は何処ほっつき歩いとんねん。電話には出え言うたん忘れたんか………あまりに出ぇへんから、てめぇから来てもうたやねぇか、どアホ」
見上げる男のまたいい顔のこと。
唖然とする自分を見下ろし、呆れるような眼差しを晒すヤクザに、大和は返す言葉も忘れる。
「た……ぁ……嵩………」
「ぷ……何や、その顔。ボロボロのズタズタやのォ」
「う………うっせぇ……ボロボロのズタズタで、悪かったなぁっ…………嵩原ぁぁっ!!」
もう、何もかも吹っ飛んだ。
大和は叫び声を上げると、必死になって嵩原へしがみついた。
ボロボロのズタズタ。
酷い顔。
だけど、嵩原は笑ってくれた。
「嵩原ぁ…………嵩原……ぁ…っ」
「ホンマ…………ひでぇ顔や………」
それだけで、十分幸せだった。
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