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忘れてました・・
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激しい夜が明ける。
「なんやろ…………この、何とも言えないモヤッと感」
俺、噴いたんや……………………。
自分の残骸で汚れたラグを、無理矢理洗濯機に押し込み、大和はモヤッとしながらスイッチを押す。
ポチ……………ヴォォォン…………………。
無理矢理突っ込まれた洗濯機は、とても苦しそう。
「………………噴いたんか………………」
まだ言ってる。
だって、イカされ過ぎて記憶にない。
「はぁ………………………」
大和は、スイッチに指を乗せたまま、緩やかに回るラグを見つめた。
あれだけ乱れて、自分で後始末。
リアルって、こう言う事だよね。
とりあえず、高橋には『今日はしっかり休んでくれ』と電話した。
「……………………………あれ?何や、大事な事忘れてる気が………………………」
いや、忘れてる。
今、噴いた話より、遥かに大事な事。
噴いた話より…………………………。
「ああああ………………っ!!!」
パウダールームに広がる、大和の絶叫。
バタバタバタ………………ッ………
「なっ……………何やっ!?ど、どないしたんやっ!!大和……………………っ!!」
シャワーを浴びたばかりの、お父ちゃん。
リビングで、濡れた髪を拭いていた最中に聞こえて来た、尋常じゃない叫び声に、慌てて駆け付ける。
「お、親父ぃっ………………俺、大事な………………え………それ………………」
駆け付けた父親の手には、何故か既に刺青の本。
大和は本を指差し、固まった。
忘れてたの、ソレです。
「あ?……………ああ、これな…………最近の画は色んなもんがあるなぁ思うて、髪拭きながら見とってん」
「さ、最近て……………………」
そんなんで、相談出来るのか?
絶叫した理由がソレなだけに、大和の脳裏に微かな不安が過る。
「でも……………高橋は、親父がええ言うてたしな」
高橋の言葉は、素直に信用します。
何せ、高橋ですから。
「……………………オイ、お前の頭ン中は見えへんけど、えらい失礼な気がすんのは考え過ぎか」
過ぎません。
さすがにお父ちゃん、我が子の表情一つで心情を悟る。
高橋。
相変わらず、侮れない。
「……………………で?何がええかくらいは、頭に入れたっとんのか?」
グォングォンと、いつもよりうるさい洗濯機の音を遠くに聞き、リビングで大和は本題と向き合う。
「…………………………何も」
ええ、何も。
キレイにしたソファに座る父親を前に、大和は冷たいフローリングへ正座。
冷たい……………………しつこいですが、汚しまくったので、ラグ。
「何もて………………………イメージ位湧くやろ。自分かて、立派なん背中に入れとんやし」
「入れとる言うても……………………俺は、親父のが欲しかったさかい………………他の画なんぞ、考えた事もないしなぁ」
幼い頃から、憧れた。
見とれる様な、父親の刺青。
このイケてる外見に似合い過ぎて、他なんて目にも入らなかった。
「お前……………………それで、よう彫り師見付けたな」
未成年に彫り物を入れる。
下手打てば、彫り師が捕まるご時世。
そう言えば、誰が彫ったかとか聞いた事なかったな………………………お父ちゃん、今更首を捻る。
無理もない。
あの時は、あまりにショックで、それどころではなかった。
「んー、坂上のオッサンに頼んだら、親父の許可とれ言うて突っ返されて…………………」
「はぁ…………………………?」
坂上の奴、そないな事一つも…………………。
我が子の行動に、嵩原は言葉を失う。
しかも、頑固な坂上が、よく突っ返さすだけで終わらせた。
礼儀知らずの若い連中が、坂上の怒りに触れ、ぶん殴られると言う話は有名だ。
「んで、許可取らへんとやったらんて言い張りよるさかい、一番弟子の細川に頼んだんや。細川なら、親父の刺青も知っとるし、坂上の腕に近いやろ?」
許可取らへんと。
多分坂上は、嵩原が許可しない事を見込んで、そんな話をしたのだろう。
それでも、職人気質の難しい坂上相手に切り込んでいった大和に、嵩原は心の中で感心した。
これが、その辺のただの不良なら、足が震えて口も利けずに終わるのが関の山。
長年、ヤクザ相手に負けずに生きてきた坂上は、見た目も存在感も、あの上地に負けない。
「せやけど、細川も嫌がらへんかったか?坂上が断ったん引き受けんのは、後味悪い。それも、ガキが刺青て………………………」
滅多に弟子を取らない坂上の唯一の弟子、細川。
確かに、腕はいい。
まだ30そこそこの若さだが、その実力は坂上も認めていた。
でも、だからって引き受けた事が、不思議である。
「ああ……………………それな…………………」
父親の疑問に、何だか気まずそうに目を逸らす、大和。
「それな…………………………何」
怪しい。
嵩原は、テーブルに置いた煙草を取りながら、大和の答えを待った。
「いや………………………実はな…………………細川、親父のファンらしいやんか?」
「…………………………はい?らしいやんか…………………て、俺は初耳やけど?」
大体、細川と話をした事も数える程。
一人立ちしている弟子なんか、会う事自体少ない。
「まあ、そうやねん……………親父の事好きなんやて」
関西のヤクザ絡みの連中にとって、お父ちゃんはカリスマですから。
知らない所へ、ファンがいる。
「せやからな、あげたんや………………親父のスーツ」
………………………………は。
苦笑いしながら新しい事実を語る大和に、嵩原の手にしていた煙草が、床へとポトリ。
スーツ?
スー………………お父ちゃんの頭に過る、一つの記憶。
思い返せば、当時お気に入りのスーツが一着、いつの間にか消えていた。
あれ、まだ一回しか着てない、超高級品だった。
「おま…………………………」
「細川、親父の匂いが付いたんがええ言うてたから、前の日に着とったんパクった」
親父の匂いが……………………。
それ、変態!!
お父ちゃん、さすがにドン引き。
「………………………ごめん」
大和の謝罪を、頭を抱えて耳にする。
モテるって、辛いよね?
細川って、190超えの大男なんです。
そんな野郎が、自分のスーツを握りしめ、匂いを嗅いでる姿が目に浮かぶ。
モテるって、本当に辛いよね?
「親父…………………………それで、山代の刺青、何がええと思う?」
可愛い、我が子。
罪である。
(いつもありがとうございます。本編始まりました。不安な気持ちと皆様の温かさに勇気をいただき、前を向いている心境です。今後、以前のように本編優先で進行したいと思っています。こちらも大切にしますが、今以上に少し更新が遅れる時もあるかもしれません。ご迷惑をおかけしますが、どうかお許し下さいませ)
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