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「あれ?」
拍子抜けした俺は、そっと火宮の書斎となっている部屋のドアを窺う。
けれど直感的に、気配がないことに気づく。
「出かけた…?」
一言も掛けずに?
疑問に思いながらテーブルに近づいた俺は、そこにメモの書き置きがあるのを見つけた。
『仕事に戻る。夕食はいらない。遅くなるから先に寝ていろ。 火宮』
「綺麗な字…」
まったく、字までイケメンとか、どんだけ持っているんだか。
「ははっ、そうだよね。仕事の途中で事件を聞いて駆けつけてくれたんだもんね」
白昼堂々の通り魔事件だったんだ。
当然火宮は仕事中だっただろう。
「1人にして、って頼んだのは俺だしね…」
そうだ。
先に逃げたのは俺だ。
なのに。
「なんか…なんか駄目だなぁ…はははっ」
額に手を当て、口元には笑み。
だけど瞳がジワッと熱くなる。
「遠いよっ…っく、ぅ…」
すれ違う。
心がそっと、1歩ずつ。
「火宮さん…っ」
ジワリ、黒い染みがさらに滲みを増やしていく。
「あなたは今、何を考えてる?…あなたはどんな気持ちで、俺をこうして置いてった…?」
俺に頼まれたから従っただけ?
それは気遣いのつもり?
それとも、仕事が忙しいから…。
グズグズ我儘を言っている俺は、放っとけばその内収まると、思った…から?
「っ…」
ギュッと握り締めてしまっていた手の中で、メモがクシャリと音を立てた。
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