アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
19夜
-
「やめて! お願いやめて! お願いします……っ! 」
二人の後を追って昌の家に着いた満は、目の前の光景にただ呆然立ち尽くした。
昌の家に生えていた立派な大木が燃えていた。
それはどんどんと火力を増して、周りを燃やす。
満は必死に声を上げた。姿が見えない満月に向かって大声を張る。
「なにを? 」
「この炎を止めて……! 大切な人たちなんだ! 酷いことをしないで……っ、お願いします……」
「私よりも大切な人なのかい? 」
姿は見えない筈なのに、まるで射るような視線を感じ、冷たい満月の声に満は背筋を凍らせた。
満が欲しい満月からしたら、この言葉はさぞ面白くないものだろう。
だけど、これだけは……と。
「……そうだ、あなたよりも大切な人たちなんだ! だから傷つけないで! 俺はどうなっても良いから」
言い切った後の少しの間、轟々と炎が唸る音さえ聞こえていなかったかもしれない。
そう感じる程、満月の視線は鋭く、満の周りの空気は冷たかった。
「ならば、尚更許せないなぁ……」
地を這うような低い、それでいてどこか憂いを帯びた声が耳元で聞こえる。
満の細い首筋に、満月であろうひんやりとした指が絡みついた。
そして、少しずつ力を込められ、満の呼吸は次第に乱れていく。
しかしその指は、辛うじて満が呼吸出来るところで止められた。
「これは"自然"に起こった災害なんだよ、分かるだろう? 」
触れられている首筋から身体が凍りつく。
目の前には炎が広がり大惨事だと言うのに、ゆっくりと諭すような満月の語りかけに、時が止まっているかのようにすら感じてしまった。
「……じゃあ、何とかして……神様なんでしょう!? 」
「神様はそんな便利な道具じゃないよ。自然を覆すことはできない」
「お願いだから……俺はどうなってもいい。死ぬ覚悟なら……」
「満のことを間違っても殺すことなんてしないさ」
「じゃあ、どうしたら……! 」
満月は助けられないと言う。それでも満は、自分を犠牲にしてでも彼らを救いたかった。
と言うよりも、今ここで頼れる人物は他でもなく満月しかいなかった。
「どうしても、できないものはできないんだよ。分かってくれるかい? 」
満は自分がわがままを言う子供のようで、無力な自分が急に情けなくなった。
だが、まだ切り札が残っていない訳ではなかった。
絶対に使いたくはなかった手段。これは最後のプライドでもあった。
しかし、大切な人たちを守るためならば満は喜んでこの身を捧げようと決意した。
「あなたの……」
「なんだい? 」
「あなたのものになります、身も心もあなたに捧げます。……あなたを、愛せるよう努力します。だから、お願いだから……」
悔しさから唇が震える。自分から満月のものになるなど、死んでも口にしたくはなかった。
皆を助けてもらえるという確信はなかったが、満に夢中な満月ならば、あるいは可能性があるとその可能性に賭けた。
「皆を、助けて……」
賭けとは言っても、満は心のどこかで、満月のものになると宣言すれば皆は助けてもらえると信じきっていた。
これは満が自分から、満月の元に行くよう仕向けられたシナリオで、それを達成した今、全てが収まるはずと。
「……満、きっと疲れているんだね。身体に無理をさせ過ぎてしまった。ごめんね。ほら、力を抜いて、目を閉じて……」
だから、まさかこんな展開は少しも想像していなかった。
首筋を掴まれていた指は離れ、代わりに満の目の前が暗くなる。
「いやだ! お願い……あきら、かず……」
突然襲ってきた睡魔に抵抗する間もなく、満は気絶したように眠りについた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
19 / 24