アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
旅の恥はかき捨て …20
-
「では、失礼致します」
ニヤニヤが顔に出ないように堪えながら、ミシェルは優雅に膝を折った。
「あぁ」
「う、うん。おやすみ、ミィ」
二人に会釈して、ドアを閉めながら何気なく振り返ったミシェルは、そこで信じられないものを見た。
それは、ルシエルの方を見たアルフレッドの顔である。
甘く溶けるような眼差しのアルフレッド。
ミシェルの知る、誰にでも同じ笑顔を見せる王太子はそこにはいなかった。
フワリと緩みきったその横顔を、ミシェルは知らない。
元婚約者のミシェルでさえ見たことのない顔がそこにあった。
そして、その向かいにいるルシエルもまたアルフレッドの笑顔に反応して、双子のミシェルですら見たことのない甘い顔を返していた。
そんな二人を視界から消すようにパタリとドアが閉まる。
「〜〜っ!!」
ドアが閉まった途端、なぜか居ても立っても居られなくなったミシェルは、小走りで自室に戻った。
侍女が怪しむのも構わず、はしたないと分かっていながらも、ベッドにダイブする。
そして枕に顔を埋めて「キャー!!いやーーん!!」と、足をバタバタさせながら叫んだ。
最後に見た二人の顔を思い出す。
愛し合う者同士の、絡み合う熱い視線。
あの二人はきっと朝まで一緒に過ごすのだろう。
しかし、それを咎めようとはミシェルは思わなかった。
こんな風に同じ屋根の下で夜を過ごせることなど滅多にある事ではないからだ。
それに、ルシエルの事はどんなことでも応援したいと思っていた。
「いやだ。もう二人を見るだけでニヤけそうだわ……」
そう呟いたミシェルは、すでにニヤついていた顔を、抱えていた枕に押し付けた。
その頃、ルシエルの部屋には、恥ずかしさで俯くルシエルと、ふわりとルシエルを抱きしめているアルフレッドがいた。
「ルシエル。朝までここに居てもいいか?」
アルフレッドの申し出に、ルシエルは驚いた。
コトが終われば、アルフレッドは自室に戻るだろうと思っていたからである。
それに、朝を一緒に迎えるとなると、侍女や従事に間違いなく二人の関係がただならぬものだとバレるであろう。
なにより、ミシェルに色々バレてしまった後で……というのが恥ずかしかった。
「いえ、あの、それは……」
「ダメ?」
アルフレッドはそう言って、ルシエルの頭にキスを落とした。
「ダメではない、ですが……ミシェルにあんな風に言われた後だと、やっぱり恥ずかしくて。それに、その……っ」
「まぁ、気持ちは分からなくもないが……。旅の恥はかき捨てる?だったかな?ミシェルさんが言っていたじゃないか。とにかく、ルシエルと一夜を過ごせる機会なんてなかなかないんだ。……だから、僕は遠慮しないことにした」
アルフレッドは楽しそうに笑いながらおでこにキスを落とした。
ルシエルは、葛藤していた。
色々と恥ずかしい。
けれど、ミシェルやアルフレッドの言う事も最もだ。
そうしてアルフレッドのキスは、ルシエルの頬に降りてきた。
「出来るだけ長く、君にこうして触れていたい」
アルフレッドのその言葉は、ルシエルの気持ちを変えるのに充分だった。
ルシエルも、アルフレッドに触れたいのだ。
アルフレッドは、いつか自分から離れてしまうだろう。
それまでの有限の時間を一時でも無駄にしたくない。
出来るだけ多くの時間を共に過ごしたい。
「……僕も、出来るだけ長く、一緒にいたい」
ルシエルがそう答えると、アルフレッドの唇がルシエルのそれにそっと重なった。
「ルゥ……」
優しいキスが、何度も何度も降ってくる。
(幸せ、過ぎる)
幸せ過ぎて、ルシエルは泣きたくなった。
泣きたい理由に気付きたくなかったルシエルは、必死に意識をアルフレッドに向けた。
アルフレッドの背に腕を回して、自らも唇を押し付ける。
それを合図に、激しく唇と舌を絡ませながら、二人はベッドへと倒れるようになだれ込んだ。
服を脱ぎ捨て裸になれば、身体を絡めるように密着させる。
「や、んふ……っ、あ……」
「はっ……っ」
部屋に、シーツの擦れる音と二人の吐息が響く。
二人の間で勃ち上がった熱の塊にそれぞれ手を伸ばす。
クチュクチュと卑猥な音を立てながら、お互いを高みへと導いた。
「あ、アル……っ!も、もぅ、ダメぇ」
「ん。ルゥ……イイ、よ……っっ!」
達してもなお、二人はしばらくの間、身体を擦り付け合いながらキスを続けた。
まるで、達することの方がついでのように、身体を密着させ、お互いの熱を夢中で求め合った。
翌朝、二人の雰囲気が一層甘い物に変わった事に、ミシェルだけでなくレオンも気付いた。
普段、何事も冷静にこなすレオンでさえ狼狽えてしまうほどアルフレッドは甘い空気を撒き散らしていたのである。
そして、帰りの馬車の中では、惚気をこれでもかと聞かされた。
アルフレッドの春の訪れを喜びつつも、これから大変な事になるのでは、と心の中でため息をつくレオンであった。
逆にルシエル達の馬車の中では、その手の話題は一切出てこなかった。
ミシェルはもう何に触れていいか分からず、結果その話題を口にすることはなかったのだ。
しかし、幸せそうなルシエルを見て、自分も必ず恋を成就させると心に誓った。
そしていつか、ルシエルと恋バナで盛り上がるのだと想像して、ニヤけてしまうミシェルであった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
69 / 166